2015年5月5日火曜日

言語境界上の2つの村

 イタリア北部、南チロル。第一次大戦後にオーストリアからイタリアに割譲され、都市部を中心にイタリア語民が流入してきたが、農山村ではドイツ語が卓越する。そこから南に向かって行くと、イタリア語地域に移り変わる。ちょうどその境界上に相対して位置する2つの村、St.FelixとTretが注目されてきた。同じ環境にあって異なる言語集団から形成されている2つの村を比較した民族学の研究 Cole, J.W. and Wolf, E.R. 1974. The Hidden Frontier: Ecology and Ethnicity in an Alpine Valley. Academic Press.(1999年に新版)はつとに知られる。日本でも、山本正三・加賀美雅弘・中川 正 1983. 集落の文化特性に関する比較研究ー文化人類学における2つの事例. 地域研究 24-1:1-12. において紹介されている。
 同じ環境を異なる言語集団がどのように利用しているのか、そこにどんな違いがあるのか、地理学からみても面白いテーマとなる。1980代に、南チロルを研究しているR大Y氏に連れられて、この2つの村を訪ねたことがある。昨夏、チロルを広く回ってみた折に、再びこの両村に行ってみた。
 「ドイツ語民の村であるSt.Felixは散村であり、かたやイタリア語民の村Tretは塊状村である。」言語集団毎に、住むかたち、集落形態からして違っていると、かつて訪れた際に撮影した写真をもとに授業で教えていたものである。今回行ってみて驚いたのは、散村であったSt.Felixの中心部に新しい住宅が多数建てられ、集住傾向にあること、一方で、塊状村であったTretの集住部の外に、新たな住宅が点在して建てられ分散傾向にあることであった。しかも、これら新しく建てられた住居は、どちらの集落においてもベランダをもち、その手すりに花を飾る、チロルによくみられる様式をとっていた。すなわち、集落の形態においても、建築様式においても、ドイツ語民の村、イタリア語民の村、双方において近似化、あるいは収斂がみられるといえよう。

St.Felixの中心部
 
Tretの周辺部








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