2016年2月29日月曜日

田舎のショッピング・センター

 日本の話である。去る正月、実家に帰った折に、最近、改修されたという某大手ショッピング・センターにお酒を買いにでかけた。お酒の販売コーナーに行って驚いたのは、その規模、品揃えの豊富さ!地元の地酒は各種そろっているし、ワインも産地別に各種集められている。その上、試飲コーナーまで設けられている。こんな田舎で、世界中のワインが買えて、そして飲めるとは、、、。
 別の日、やはり最近できて話題となっているアウトレット・モールとやらに運転手としてでかけた。アウトレットとはいえ、日本や世界のよく知られた高級ブランドの店が並ぶ。ここでも、こんな田舎で、、、と、何もなかった一昔前を思うと、感慨深いものがあった。
 これまでであれば、より大きな街にでかけていかなくては手に入らなかったものが、すぐそこで買うことができる、そんな状況が生まれつつあるのではないか、と思う。田舎でも、大都市と遜色ない消費生活が可能になっている。既存の商店街の衰退をもたらすものとして、こうしたショッピング・センターは批判の対象となることも多いが、一方で、地方に住む人にも、これまで縁遠かったモノやサービスにアクセスする機会を提供していると評価できるかもしれない。それは同時に、コンビニの提供するボージョレー・ヌーボーや恵方巻きにみられるように、消費の平準化、画一化を伴ってもいるわけだが。
 いずれにせよ、こうした状況は、田舎に住む人にとっては便利になったということであり、生活水準が向上したということにもなろう。 そうであれば、都会に出ずにずっと田舎に住んでもいいかな、と思う人がでてくるかもしれない。そしてまた、都会から田舎に移り住もうという人が増えてくるかもしれない。
 

2016年2月28日日曜日

落語(2)

 年が明けていつの間にやら学期末。日本の暦と大学の学期には齟齬がある、と常々思っている。4月に新学期が始まり、調子に乗ってきたところで、ゴールデンウィークがやってくる。五月病とやらがいわれるが、休みが入ることで緊張が解けることもあろう。後期も後期で、年末年始でのんびりした後は、なんとなくオマケのような感じとなる。
 さて、再び落語である。相変わらず、通勤の際に聴いている。と、前回に指摘した笑いのツボにもう一つ付け加えたくなった。それは「逆転」である。弱いものが強く、逆に強いものが弱くなる主客逆転が笑いを誘う。「らくだ」で、恐い兄貴分に指図されていた屑屋が、お酒を飲むうちに、兄貴分に対して大口を叩くようになる。「初天神」では、ものを買ってくれと駄々をこねる息子に手を焼く父親が、息子に買ってやったタコ揚げに本人が子どものように夢中になってしまって、息子に呆れ果てられる。立場の入れ換わりがここにある。また、現実だと思っていたことが夢であったり(いわゆる夢落ち、たとえば「夢金」)、夢だったと思っていたら現実であったり(「芝浜」)、これもまた同種のものであろう。
 さて、落語は、道徳、倫理もまた伝えてきたと述べた。 合わせて、教育、伝承の役割も果たしてきたのではないだろうか。ご隠居に熊さんが、問いかけて、ご隠居が応える。それに対して、熊さんはまた頓珍漢な解釈をして応える。これがおもしろいわけだが、こうしたやり取りを通して、弥生は3月であることなど、言葉の意味を教授することになっているわけである。こうした語句に加えて、英雄譚、、合戦、和歌、川柳など、日本史や詩歌が落語の話の中にちりばめられることで、知らず知らずのうちにそれらが身についていくのかもしれない。落語初心者の勝手な解釈であり、落語家はそんなことはない、と否定されるかもしれない。が、意図しない効果というものはあるだろう。
 先日、本屋の漫画コーナーに、荒川弘の「百姓貴族(4)」を探しに行ったときに、「落語心中」という漫画を目にした。こんな漫画があるのだ、と第1巻を買う。最初にでてくる落語が「死神」。第2巻以降も買ってしまうかも、、、
 

2016年2月26日金曜日

ショッピング・ステーション

 「EUでは、、、」という言い方と、「ヨーロッパでは、、、」という言い方と、適当に使ったりしているが、むろん厳密には区別しなくてはいけないであろう。今回、久しぶりに訪れたスイスはヨーロッパに位置するが、EUには加盟していない。とはいえ、他のEU加盟のヨーロッパ諸国にみられると同様の都市や農村の変容があり、都市計画や地域計画において同様の方向性を有しているように思えた。(逆にEUに加盟していないスイスならでは、という特色にどんなものがあるだろう?)


  今回、スイスでは、チューリッヒ空港駅からベルン駅に降り立ち、ベルン駅からインスブルック駅に行く途中で、チューリッヒ駅で乗り換えをした。ベルン駅もチューリッヒ駅もとてもきれいに改修されており、同時に、駅構内に、それぞれ地下部分(ベルンでは駅ビルの2階、3階にも)に、多くの店舗が設けられていた。このように駅に多くの店舗が、まるでショッピング・センターのように配置されるのは、ドイツやオーストリアなど他のヨーロッパ諸国でもみられることである。


ベルン駅地下。中央は、中世都市の遺構。

遺構を活かしたカフェテリア。
チューリッヒ駅コンコース。この地下が下の写真。

チューリッヒ駅の地下。まるで地下商店街のよう。

 1992年に初めて旧東独のライプチッヒを訪れた時に、中欧最大とうたわれたライプチッヒ中央駅は、薄汚れていて改修工事の真っ最中であった。ところが、その後、再訪した際には、見違えるように駅はきれいになり、加えて、駅舎の地下2階、3階部分が、多くの店が並ぶモールになっていた。同じように、駅を改修して店舗をおくことは、その後、ドイツのあちこちの駅でみられたことである。

 日本でも、たとえばJR東日本がecuteと称して、駅ナカの商店街をつくろうとしているが、同じようなことが日本に先行してヨーロッパでもなされてきたといえる。 背景にあるのは、ひとつには店舗の営業日の規制である。近年、ずいぶんと規制が緩和されてきたとはいえ、日曜祝日の営業は、多くの国で規制されており、できたとしても年間何日とか定められている。ただし、例外があって、駅や空港、あるいはガソリンスタンドは、日曜祝日でも営業が認められてきた。旅行者、移動する人々の便宜を図るためである。したがって、お店があったとしても、サンドイッチや飲み物を売る店があったり、スーパーがあったとしても、規模も小さく品揃えも少なく、必要最小限の需要を満たすだけのものであった。ところが、上述のような駅の改修によって、街の商店街に並ぶのと同じようなお店が立地するようになってきたのである。スーパーにしても、本格的な品揃えの床面積の大きなものがみられるようになった。日曜日、街の商店街のお店はどれも閉まっている、しかし、駅の中のお店は開いている、しかも、街の中の店と変わらない、となれば、駅にお客さんはやってくることになる。駅におけるこのような商業機能の集積は、店舗の営業規制の網をくぐり抜けるように進行してきたともいえよう。


インスブルック駅の地下。右手に本格的なスーパー。週末はレジに列ができる。奥は駐車場。ここでも鉄道と自動車の接続が図られている。

  駅は今や、その町において主要な商業集積地のひとつとなりつつある。そして、交通のノード、結節点として駅の機能強化が図られているともいえる。「ショッピング・ステーション」という表題はミスではない。駅がショッピング・センターやモールのようになっている状況は、まさに、「ショッピング・ステーション」と称してよいのではないか。こうした駅への商業集積によって、消費行動が変化し、加えて、町の商業の分布なども変化するかもしれない。加えて、駅への機能の集中は商業にとどまらず、業務機能においても見られることである。これについてはまた今度。

 
最近、改修が終わったウィーン西駅。外見は昔とそんなに変わらない。向こうはオフィスビル(一部、商店)。



ウィーン西駅構内。きれいになったものだ。


地下2層がショッピング街となっている。



  
 



2016年2月21日日曜日

ヨーロッパを安く移動する(2)

 さて、前回は鉄道やバスによる長距離移動において安く移動する方法について述べた。一方、ヨーロッパにおいて各都市において、バスやトラム、地下鉄などを1枚のチケットで、また一日券や3日券で格安に乗車できるシステムがあることはよく知られている。ドイツではVerkehrsverbund運輸連合という組織のもとで、こうしたシステムが運営されている。この運輸連合のあり方の詳細については、土方まりこ 2010. ドイツの地域交通における運輸連合の展開とその意義. 運輸と経済 70(8):85-95.(http://www.itej.or.jp/assets/www/html/archive/jijyou/201008_00.pdf)において紹介されており、この文献の95ページにドイツにおける運輸連合の分布図が、ドイツ鉄道アトラスに基づいて示されている。ここであまり注目されていないようであるが、興味深いと思えるのは、個々の運輸連合の領域が拡大しているのではないかということである。分布図をみると大都市ほどその運輸連合の管轄域が広い。都市圏の拡大に伴って実際に運輸連合は拡大してきたのか、変化プロセスを追ってみてもおもしろいかもしれない。

 一回券にせよ一日券にせよ、ある都市圏における交通においてはゾーン制がとられており、街の中心、旧市街あたりだけであれば安く、都心から離れたところへ行こうとするほど当然であるが高くなる。とはいえ、前述のように、運輸連合の範囲が広くなっているので、うまくチケットを使えば思いの外安く、遠くへ小旅行が可能となる。たとえば、ドイツの大学都市ハイデルベルクを含むライン・ネッカー運輸連合を例にとってみよう。ここに3、4日滞在するとしてライン・ネッカー圏全体の交通(路面電車やバス、国鉄など全て、特急を除く)を利用できる3日券を42.3ユーロで買う。これでハイデルベルク市内全域を自由に乗り降りができるし、マンハイムに足を伸ばして、トルコ人街でトルコ料理を味わい、さらにドイツ・ワイン街道まで、郊外電車か、とことこ走る路面電車ででかけてワインを楽しむこともできる。

 もっと広い範囲をカバーする運輸連合が、チロル州運輸連合であり、チロル州全体を管轄する。1週間のチケット54.6ユーロで、チロル中の鉄道、バス、トラムなどが利用可能である。チロルはけっこう山の中までバス網が設けられているので、使い出がある。インスブルックに滞在しつつ、西は、フォアルベルクの手前のスキーリゾート、サンクトアントンまででかけたり(夏もゴンドラが運行していてアルプスの雄大な風景が堪能できる)、東はチロル有数の高級リゾート、キッツビュールの町歩きを楽しんだりすることができる。チラータルの軽便鉄道に乗ったり、イン河谷の崖を登っていくインスブルックからゼーフェルトに至る眺望のよいルートをいくこともできる。また、オーストリアでは、特急料金というものがないので、チロル内であれば、RailJetと称するオーストリア国鉄の特急や、チロルを通過する国際特急ECなども利用できる(日帰りであれば身軽なので、ゆったり食堂車でビールを飲みながらチロルの風景を堪能できる)。

 かように都市内という近距離のみならず、中長距離においても、うまくチケットを使うことで、安く移動が可能である。このことは、旅行者のみならず、そこに住む人々にとっても同様であり、安価にモバイル(移動)できる環境があるわけである。



 

2016年2月19日金曜日

ヨーロッパを安く移動する(1)



 ヨーロッパを歩いて目につく言葉の一つがモバイルmobilである。ある場所から様々な場所へ容易にモバイル、すなわち移動できるシステムをつくることが都市計画、地域計画において目指されている。先に紹介したcombined transportもまさにモバイルのためである。
 短時間で到達できることや、移動手段の運行の間隔が短く本数が多いこと、また、運行が朝早くから深夜にわたり長いことなど、移動の確保にとって重要であろう。加えて、安価に移動できることもまたポイントである。

 今回、チューリッヒ空港に降り立ち、空港駅の窓口にて、ベルン行きの切符を買った。休暇(カーニバル)で混んでるから1等車にしたら、と駅員は勧めたが、むろん2等でよいと応える。それでも、ベルンまでの1時間余りの乗車が55スイスフラン!けっこうな値段である。飛行機は遅延の可能性も高いため予めチケットを買うのにはリスクがあるので、到着後に購入した。が、その後の、ベルンからチューリッヒを経てのインスブルック、インスブルックからミュンヘンの列車の切符は予めネットで購入しておいた。オーストリア国鉄のホームページで前者は45ユーロ、後者は12ユーロであった。しかも双方とも1等車である。ヨーロッパの多くの国の鉄道は、かようにネット上で列車を検索し、かつ席の予約、購入ができ、そしてチケットの印刷ができるようになっている。日本で印刷したチケットをもっていって、車内検札の時にみせればよいだけである。しかも繁忙期と閑散期で、そして一日のうちでも時間によって、同じ区間の値段が列車によってずいぶんと異なり、安いチケットはべらぼうに安い!航空券などと同様に、需要に応じてフレキシブルに値段を設定しているのであろう。日本では基本的に価格は年中一定、そして、ネットで予約はできるもの発券は駅でしなくてはならない。なんとかならないものであろうか。

 一等はぜいたく、と自分も思うが、二等と値段はたいしてかわらない。一等にするメリットは、まず、すいている。二等もよほどのことがないかぎり座れないことはないが、席を探すのに苦労することはある。合わせて、盗難などにあうリスクがとても小さくなる。二等であれば、一人で乗っている時など、荷物を置いてトイレにいくのも不安になることがあるが、一等であれば、まだ安心である(それを狙う輩がいるかもしれないが)。もうひとつ、一等に乗るのであれば、駅に設置されているラウンジを利用できる。スイスでは、チューリッヒとジュネーブにしかないが、オーストリアやドイツでは主要駅に設けられていて、コーヒーなどを飲みながらゆったりと列車を待つことができる。基本、駅はいかがわしく犯罪も多い、という印象をもっている(昔とちがってずいぶんとこぎれいになったが)。ラウンジにいることで、リスクも低減できるわけである。

 インスブルックからミュンヘンの12ユーロはとても安く、格安のバス並みである。昨年、インスブルックからミュンヘン空港までバスで移動したが同じような値段(8ユーロ)であった。実は今日、ヨーロッパにおける都市間、地域間輸送において、こうしたバス輸送が大きな役割を担っている。それは、国内の移動のみならず国際的な移動においても同様である。バスにおいても鉄道と同じように、需要に合わせてフレキシブルに料金設定がなされている。バスも鉄道と同様、ネットで時間を検索し、即、予約が可能であり、やはり、需要に応じて価格が変わる。昨年、利用したのは、MFB MeinFernbusという民間バス会社のバスであった。このMFB MeinFernbusは、2011年に設立されたベルリンに本社をもつ会社である。ドイツ国内のみならず国外の諸都市とのバス路線を開設し,ドイツの長距離バス市場における最大の会社にまでなった。2015年、この会社は、Flixbusという他のバス会社とバス路線網を統合する。2014年、前者は720万人、後者は350万人の乗客を運び、両者合わせてドイツの長距離バス市場の約半分を占めるという(WikiとそれぞれのHP)。

 こうした民間バス会社が勃興し、長距離バス市場が伸びてきた背景に、ドイツにおいて2013年に行われた長距離バス市場の自由化がある。2013年には86路線だったのが、翌2014年には221路線に増え、バス利用者も急増したという(Die Welt 2014.2.26.http://www.welt.de/wirtschaft/article125217462/Deutsche-koennen-aus-gut-200-Fernbus-Routen-waehlen.html)。たとえば、今、MeinFernbus/Flixbusのサイトで検索してみると、ベルリンからミュンヘンまで約7時間、22ユーロであった。そして何と2月19日一日で片道18本が運行されている。ミュンヘンからプラハは、最安値が19ユーロ、最高値が40ユーロで、同日8本がある。こうしたバス路線の拡充に合わせて、バス・ステーションの整備も行われている。以下の写真は、ミュンヘン中央駅近くのミュンヘンバス中央ステーションである。ミュンヘン中央駅は、折り返しのいわゆる頭端式ホームを持つ駅で、線路は駅の西に続く。この駅から西に伸びる線路の北側が再開発によりオフィスビルが建ち並ぶようになったが、この一角にこのバス・ステーションはある。新たに隣接してSバーンの駅も設けられ、ここでも異なる輸送手段間の接続combined transportが図られていることがわかる。

 日本も同様の自由化を行ったわけだが、このことは、鉄道にとって脅威であり、道路から鉄道へのいわゆるモーダルシフトを進める立場からは逆の動きともとれる。ただし、これまで鉄道での移動が困難な地域や都市において、新たなバス路線が開設されることで、移動の利便性が向上したという評価もされている。

ミュンヘン中央バス・ステーション。列車の中から撮影。右手が中央駅。
バス・ステーションの構内。インスブルックからミュンヘン空港駅行きのバスが経由する。上階はショッピング・モール。




 

2016年2月17日水曜日

ゴッタルド・トンネル

 ベルンの街を歩いているときに、下のような意見広告に出くわした。今あるゴッタルドトンネルにもう一本加えてトンネルを造る計画があり、それに反対しているらしい。

「トランジット地獄・スイス―第2ゴッタルド・トンネルにノーを」
  しばらく歩くと、今度は次のような広告が掲げられていた。先の広告とは反対に、トンネル建設に賛成の立場からのものである。どうやら、ゴッタルドにおける新たなトンネル建設に対して、スイスならではの国民投票があるようだ。

「スイス全体のために安全・確実なゴッタルドを―ゴッタルド・トンネルにイエスを」

 スイスには、アルプスを越える峠道がいくつか存在する(アルプスをどのようにして越えようと試みられてきたのか、別の機会に書いてみたい)。サンベルナール峠やシンプロン峠などと並んで、著名であり重要な峠がゴッタルド峠である。峠の南には、北イタリアの農工業地域があり、北はドイツやフランスなどヨーロッパの主要産業地域が位置している。これら両地域の間で、双方向の物資の移動がなされてきた。ものだけではなく、経済的な結びつきを背景に人も移動し、加えて観光目的の人の移動も多い。スイスは、こうしたヨーロッパの南北交通のトランジットの場、通過の地となってきたわけである。
 ゴッタルド・トンネルは、スイスのバーゼルとキアッソを結ぶ国道2号線上のゲシェネンGöschenen とアイロロAiroloの間に設けられた延長16.9mのトンネルである。既に1882年に開通していたゴッタルド鉄道トンネルとほぼ平行して1980年に開通したものである(ゴッタルド鉄道トンネルHP http://www.gotthard-strassentunnel.ch)。ゴッタルド・トンネルを抜けるルートは、バーゼル(その北はライン川流域のヨーロッパ経済の中心)から北イタリアの中心都市ミラノへの最短ルートということもあり、交通量が多く、渋滞も頻繁である。しかし、片側一車線の対面通行で、死者をだす悲惨な事故も起こってきた。ということで、拡張計画が過去において立てられてきたが、国民投票によって否決されてきた(Wiki)。
 ここにきて再び、トンネル建設計画がだされ、その建設を巡る国民投票が行われることになる。ちょうど帰りのスイス航空便で、Automibil Revue(Nr.6, 2016.2.10)という新聞で「ゴッタルドを巡る戦い」という特集をやっているのを目にした。賛成派のHP(http://www.gotthard-tunnel-ja.ch/)、反対派のHP(http://www.zweite-roehre-nein.ch/de.html)と合わせて、ゴッタルドは今どんな状況にあるのか、みてみよう。
 今回、スイス連邦政府がだしてきた計画は、既存のトンネルの隣りにもう1本新たにトンネルを掘るというものである。2020年から7年にかけて完成させ、その後、新トンネルを双方向の通行に用いて、現在の安全基準に合致しない既存のトンネルを3年かけて改修する。改修の終わった2030年以降に、両トンネルをそれぞれ上り下り別に運用するが、片側2車線とはせず、1車線と緊急用車線として使うという。総費用は、27億88百万スイスフランが見積もられている。
 賛成側は、ゴッタルド・トンネルの危険な状況の解消をまず挙げる。そして、アルプスの南にあってスイスの北の主要地域と分断されているティチーノ州の統合強化を主張する。むろん経済効果も大きいとされる。一方、反対側は、トンネル建設により交通量はさらに増加し、アルプスの環境破壊が進むと主張する。また、費用もかかるし、現在、建設が進められている鉄道用のゴッタルド・ベース・トンネル(新アルプス横断鉄道NEATプロジェクトとして計画)で十分ではないかという。
 反対派の代替案はどんなものかというと、2本目のトンネルは造らない。そして、980日間、現在のトンネルを閉鎖して改修を行い、代行輸送として、一般道と鉄道を用いるというものである。この場合の費用は、14億3千万~16億5千万スイスフランが見積もられる。こちらの方が安くつくことになる。
  いわゆる右派の人々が賛成で、左派が反対に回っているのに加えて、スイスにおける南北間の意見の相違があるらしい。ティチーノ州の人々にとって、トンネルの拡充は、アルプスの北の地域との結びつきの強化となり、反対派が主張するトンネルの一時閉鎖は経済的な死活問題である(反対派の人々は、ティチーノ州の過半の人々は反対であると言っているが)。
 投票は、来る2月28日。さて、スイスの人々はどんな結論をだすであろうか?



 

2016年2月16日火曜日

山とナショナリズム

 世界遺産になっているベルン旧市街の南、アーレ川を渡ったところにアルプス博物館がある。行ったことがなかったので、時間の合間に行ってみることとする。周辺は閑静な住宅街、各国の大使館や歴史博物館などもある。受付で通常の展示をみたいというと、小さい規模の特別展しかやっていないという。展示する収蔵品はたくさんあるけれども、展示スペース改修中で展示されていないとのこと。せっかく来たので、その特別展をみることにする。
 「Triglavースロベニアとその祖国の山」という展示で、実際、こぢんまりとしたものであった。 さりながら、標高2,864メートルのTriglav山は、スロベニア国民のナショナル・アイデンティティのシンボルであること、すなわち、スロバニア国民をしてスロバニアへの帰属意識を醸し出す象徴であることを示す興味深い内容である(ちなみにスイスではマッターホルンがそうであるそうな)。展示解説に沿って紹介してみよう。
  Triglavという名は、「3つの頭」という意味であり、Triglavの三峰、すなわち、スロベニアにおいて「地」、「大気」、「水」を支配する三頭の神を示しているという。山が信仰の対象として捉えられているところは日本と同様であり、「三峰」としてみられているところも秩父の三峰信仰や、富士山の三峰としての表現とも共通して面白い。
 Triglavの初登頂は1778年に遡る。19世紀、Triglavを含むジュリア・アルプスにおける登山が盛んになるが、それは主としてドイツ人登山家によるものであった。そうした中、祖国のアルプスのドイツ化を憂いたある司祭が、Triglav山頂を購入し、1895年に避難小屋(3人用)を兼ねた金属塔を建てた。その後、司祭はスロベニア山岳会に、この塔と山頂を寄付している。
 第一次大戦前、 このジュリア・アルプス周辺は、ハプスブルク帝国とスロベニアの力がせめぎ合う場であった。山頂の金属塔に置かれた、先の司祭による挨拶を含む登頂簿はスロベニア語とラテン語で書かれていたが、このことは、ドイツ語圏の山岳家のしゃくに障った。ウィーンの山岳会のメンバーは、都合2度、ドイツ語の献辞を書くことを試みている。加えて、周辺に多くの山小屋が開設されたのは、国民意識の高揚、そして領土への要求を示すものであったという。
  第一次大戦後、スロベニア領土の3分の一がイタリアの手に落ち、ユーゴスラビア(当初はスロベニア人・クロアチア人・セルビア人国)とイタリアの国境がTriglav山頂を走ることとなる。この山頂の国境を示す石が、ある時は数メートル、イタリア側へ、またある時にはユーゴスラビア側へ数メートル移動したという。それに合わせて、山頂の金属塔は、それぞれの国のシンボル色に塗り替えられた。
 第2次大戦後、Triglavは、ユーゴスラビア社会主義連邦共和国の重要なシンボルとなる。国家にとって最も高い山であり、大きな意味を持つ山であった。ちなみに、山頂の金属塔は、赤色に塗られ、五星が飾られた。Triglavは、国民が一生に一度は登るべき山とされたという。
 1991年6月25日、スロバキアは独立を宣言する。Triglavの三峰は、スロベニアの国旗に描かれることとなる。スロベニアの写真家は、Triglav山頂付近をヘリコプターで飛び、新国家を具現化する山頂にはためく旗を撮影した。この写真は、独立を伝える新聞の一面に掲載されている。
  かように、Triglavは、それぞれの時代時代において、国への帰属意識を持たせ、かつ高める存在であり、また、国民を一体化する装置として用いられてきたともいえる。日本における富士山も同様の意味をもつであろう。

特別展入り口の案内掲示


Triglav山頂の金属塔のレプリカ。このグレーがオリジナル

右下。社会主義時代のTriglav山頂の金属塔

スロベニアの写真家による「Triglav山頂にはためく国旗」

スロベニア独立を伝える新聞に示されたTriglav山頂にはためく国旗


2016年2月10日水曜日

Combined Transport

  スイス航空にてチューリッヒに入る。チューリッヒ空港からベルンまで、インターシティ特急にて乗り換えなしで移動した。スイスといえば、アルプスの山で囲まれた印象だが、スイス北部は丘陵地帯であり、チューリッヒからベルンまでは、なだらかな丘陵の間を東西に流れるアーレー川に沿って列車は走る。途中は中小の都市が並び、多くの工場や郊外型のショッピングモールが次々に現れ、この区間がスイスの経済にとって重要な地帯であることがみてとれる。スイスの経済の中心軸は西はローザンヌからジュネーブ、そして東はサンクト・ガレンまで拡張してみることもできようが。途中、いくつもの大規模な操車場があり、駅には荷物の積み下ろし用プラットフォームがあったり、工場や倉庫への引き込み線があったりする。日本でもついこの間までよくみられた風景であり、鉄道による貨物輸送がスイスにおいては一定の位置を占めているとことがわかる。
 ベルン駅前のホテルに投宿。学生の時に訪れて以来なので、二十数年ぶりとなろうか。駅前には、何系統ものバスや路面電車の停留所が集約され、平面で乗り換えできるようになっている。また、駅に直結したビルに駐車場や駐輪場が設けられている。
 これらは、実はドイツなど他のヨーロッパ諸国でも同じようにみられることである。そこで実践されていることは、Combined Transport、複合輸送(この訳でよいのかわからないが)である。複合輸送とは、人や物の輸送を一つの輸送手段のみに頼るのではなく、場面場面に応じて適した輸送手段を複数用いていく、そして、複数の輸送手段の適切な接続を図っていくことである。
 飛行機が運んできた人を今度は鉄道で目的地に運ぶ。空港の集客圏、すなわち後背地は一般に広く、中長距離列車が空港からの輸送を担う。チューリッヒと同様、パリのシャルル・ドゴール空港や、フランクフルト空港に、それぞれTGV、ICEといった特急列車が乗り込んでいるのも、輸送の合理的な分担を図ろうとしていることによる。羽田空港に上野東京ライン、あるいは新幹線が乗り入れているようなものである。
 物資についても同様で、鉄道が担うに適したところは鉄道で、トラックが担うに良いところはトラックが運べばよい。この点において、スイスでは貨物輸送において、鉄道にもある重要な役割をもたせているということであろう。翻って、日本においては、かつてあった操車場や貨物用プラットフォームはものの見事に少なくなってしまった。大宮操車場はさいたま新都心として生まれ変わり、高層ビルが立ち並ぶ。東京のもつ機能の一部を担う場所となっているが、ほかの使い方があったかもしれない。
  ドイツなどヨーロッパでは、エコ!な意識が高まり、公共交通機関へと一方的に移行しつつあるという印象をもっている人も多いかもしれないが、実はそうでもない。自家用車の利用を全く妨げているわけでもないし、自家用車が担うべき個所もそれなりに位置づけられており、したがって、駅に直結して駐車場が設置されているわけである。加えて、自転車も自転車で一つの輸送手段として複合輸送の中で位置づけられ、鉄道など他の輸送手段との合理的な接続が試みられている。
 飛行機、鉄道、自動車、バス、路面電車、自転車、これら輸送手段の合理的な分担、そして接続、すなわち複合輸送が、スイスのみならずヨーロッパにおいて図ろうとされているわけである。 そこでは、輸送あるいは交通がトータルに捉えられおり、ある場所に住む人が、別のある場所に移動する合理的な手段を確保しようと試みられている。ヨーロッパにおいて、人々に移動手段を提供するのは、ガスや電気、水道などを提供すると同じことなのである。
 

チューリッヒ空港駅にて

ベルン駅前の停車場。いわゆるトランジット・モール?

駅直結の駐車場と駐輪場入り口

駅駐車場入り口

駅駐車場構内

おまけ。ベルンの街。