2016年2月19日金曜日

ヨーロッパを安く移動する(1)



 ヨーロッパを歩いて目につく言葉の一つがモバイルmobilである。ある場所から様々な場所へ容易にモバイル、すなわち移動できるシステムをつくることが都市計画、地域計画において目指されている。先に紹介したcombined transportもまさにモバイルのためである。
 短時間で到達できることや、移動手段の運行の間隔が短く本数が多いこと、また、運行が朝早くから深夜にわたり長いことなど、移動の確保にとって重要であろう。加えて、安価に移動できることもまたポイントである。

 今回、チューリッヒ空港に降り立ち、空港駅の窓口にて、ベルン行きの切符を買った。休暇(カーニバル)で混んでるから1等車にしたら、と駅員は勧めたが、むろん2等でよいと応える。それでも、ベルンまでの1時間余りの乗車が55スイスフラン!けっこうな値段である。飛行機は遅延の可能性も高いため予めチケットを買うのにはリスクがあるので、到着後に購入した。が、その後の、ベルンからチューリッヒを経てのインスブルック、インスブルックからミュンヘンの列車の切符は予めネットで購入しておいた。オーストリア国鉄のホームページで前者は45ユーロ、後者は12ユーロであった。しかも双方とも1等車である。ヨーロッパの多くの国の鉄道は、かようにネット上で列車を検索し、かつ席の予約、購入ができ、そしてチケットの印刷ができるようになっている。日本で印刷したチケットをもっていって、車内検札の時にみせればよいだけである。しかも繁忙期と閑散期で、そして一日のうちでも時間によって、同じ区間の値段が列車によってずいぶんと異なり、安いチケットはべらぼうに安い!航空券などと同様に、需要に応じてフレキシブルに値段を設定しているのであろう。日本では基本的に価格は年中一定、そして、ネットで予約はできるもの発券は駅でしなくてはならない。なんとかならないものであろうか。

 一等はぜいたく、と自分も思うが、二等と値段はたいしてかわらない。一等にするメリットは、まず、すいている。二等もよほどのことがないかぎり座れないことはないが、席を探すのに苦労することはある。合わせて、盗難などにあうリスクがとても小さくなる。二等であれば、一人で乗っている時など、荷物を置いてトイレにいくのも不安になることがあるが、一等であれば、まだ安心である(それを狙う輩がいるかもしれないが)。もうひとつ、一等に乗るのであれば、駅に設置されているラウンジを利用できる。スイスでは、チューリッヒとジュネーブにしかないが、オーストリアやドイツでは主要駅に設けられていて、コーヒーなどを飲みながらゆったりと列車を待つことができる。基本、駅はいかがわしく犯罪も多い、という印象をもっている(昔とちがってずいぶんとこぎれいになったが)。ラウンジにいることで、リスクも低減できるわけである。

 インスブルックからミュンヘンの12ユーロはとても安く、格安のバス並みである。昨年、インスブルックからミュンヘン空港までバスで移動したが同じような値段(8ユーロ)であった。実は今日、ヨーロッパにおける都市間、地域間輸送において、こうしたバス輸送が大きな役割を担っている。それは、国内の移動のみならず国際的な移動においても同様である。バスにおいても鉄道と同じように、需要に合わせてフレキシブルに料金設定がなされている。バスも鉄道と同様、ネットで時間を検索し、即、予約が可能であり、やはり、需要に応じて価格が変わる。昨年、利用したのは、MFB MeinFernbusという民間バス会社のバスであった。このMFB MeinFernbusは、2011年に設立されたベルリンに本社をもつ会社である。ドイツ国内のみならず国外の諸都市とのバス路線を開設し,ドイツの長距離バス市場における最大の会社にまでなった。2015年、この会社は、Flixbusという他のバス会社とバス路線網を統合する。2014年、前者は720万人、後者は350万人の乗客を運び、両者合わせてドイツの長距離バス市場の約半分を占めるという(WikiとそれぞれのHP)。

 こうした民間バス会社が勃興し、長距離バス市場が伸びてきた背景に、ドイツにおいて2013年に行われた長距離バス市場の自由化がある。2013年には86路線だったのが、翌2014年には221路線に増え、バス利用者も急増したという(Die Welt 2014.2.26.http://www.welt.de/wirtschaft/article125217462/Deutsche-koennen-aus-gut-200-Fernbus-Routen-waehlen.html)。たとえば、今、MeinFernbus/Flixbusのサイトで検索してみると、ベルリンからミュンヘンまで約7時間、22ユーロであった。そして何と2月19日一日で片道18本が運行されている。ミュンヘンからプラハは、最安値が19ユーロ、最高値が40ユーロで、同日8本がある。こうしたバス路線の拡充に合わせて、バス・ステーションの整備も行われている。以下の写真は、ミュンヘン中央駅近くのミュンヘンバス中央ステーションである。ミュンヘン中央駅は、折り返しのいわゆる頭端式ホームを持つ駅で、線路は駅の西に続く。この駅から西に伸びる線路の北側が再開発によりオフィスビルが建ち並ぶようになったが、この一角にこのバス・ステーションはある。新たに隣接してSバーンの駅も設けられ、ここでも異なる輸送手段間の接続combined transportが図られていることがわかる。

 日本も同様の自由化を行ったわけだが、このことは、鉄道にとって脅威であり、道路から鉄道へのいわゆるモーダルシフトを進める立場からは逆の動きともとれる。ただし、これまで鉄道での移動が困難な地域や都市において、新たなバス路線が開設されることで、移動の利便性が向上したという評価もされている。

ミュンヘン中央バス・ステーション。列車の中から撮影。右手が中央駅。
バス・ステーションの構内。インスブルックからミュンヘン空港駅行きのバスが経由する。上階はショッピング・モール。




 

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