2016年2月17日水曜日

ゴッタルド・トンネル

 ベルンの街を歩いているときに、下のような意見広告に出くわした。今あるゴッタルドトンネルにもう一本加えてトンネルを造る計画があり、それに反対しているらしい。

「トランジット地獄・スイス―第2ゴッタルド・トンネルにノーを」
  しばらく歩くと、今度は次のような広告が掲げられていた。先の広告とは反対に、トンネル建設に賛成の立場からのものである。どうやら、ゴッタルドにおける新たなトンネル建設に対して、スイスならではの国民投票があるようだ。

「スイス全体のために安全・確実なゴッタルドを―ゴッタルド・トンネルにイエスを」

 スイスには、アルプスを越える峠道がいくつか存在する(アルプスをどのようにして越えようと試みられてきたのか、別の機会に書いてみたい)。サンベルナール峠やシンプロン峠などと並んで、著名であり重要な峠がゴッタルド峠である。峠の南には、北イタリアの農工業地域があり、北はドイツやフランスなどヨーロッパの主要産業地域が位置している。これら両地域の間で、双方向の物資の移動がなされてきた。ものだけではなく、経済的な結びつきを背景に人も移動し、加えて観光目的の人の移動も多い。スイスは、こうしたヨーロッパの南北交通のトランジットの場、通過の地となってきたわけである。
 ゴッタルド・トンネルは、スイスのバーゼルとキアッソを結ぶ国道2号線上のゲシェネンGöschenen とアイロロAiroloの間に設けられた延長16.9mのトンネルである。既に1882年に開通していたゴッタルド鉄道トンネルとほぼ平行して1980年に開通したものである(ゴッタルド鉄道トンネルHP http://www.gotthard-strassentunnel.ch)。ゴッタルド・トンネルを抜けるルートは、バーゼル(その北はライン川流域のヨーロッパ経済の中心)から北イタリアの中心都市ミラノへの最短ルートということもあり、交通量が多く、渋滞も頻繁である。しかし、片側一車線の対面通行で、死者をだす悲惨な事故も起こってきた。ということで、拡張計画が過去において立てられてきたが、国民投票によって否決されてきた(Wiki)。
 ここにきて再び、トンネル建設計画がだされ、その建設を巡る国民投票が行われることになる。ちょうど帰りのスイス航空便で、Automibil Revue(Nr.6, 2016.2.10)という新聞で「ゴッタルドを巡る戦い」という特集をやっているのを目にした。賛成派のHP(http://www.gotthard-tunnel-ja.ch/)、反対派のHP(http://www.zweite-roehre-nein.ch/de.html)と合わせて、ゴッタルドは今どんな状況にあるのか、みてみよう。
 今回、スイス連邦政府がだしてきた計画は、既存のトンネルの隣りにもう1本新たにトンネルを掘るというものである。2020年から7年にかけて完成させ、その後、新トンネルを双方向の通行に用いて、現在の安全基準に合致しない既存のトンネルを3年かけて改修する。改修の終わった2030年以降に、両トンネルをそれぞれ上り下り別に運用するが、片側2車線とはせず、1車線と緊急用車線として使うという。総費用は、27億88百万スイスフランが見積もられている。
 賛成側は、ゴッタルド・トンネルの危険な状況の解消をまず挙げる。そして、アルプスの南にあってスイスの北の主要地域と分断されているティチーノ州の統合強化を主張する。むろん経済効果も大きいとされる。一方、反対側は、トンネル建設により交通量はさらに増加し、アルプスの環境破壊が進むと主張する。また、費用もかかるし、現在、建設が進められている鉄道用のゴッタルド・ベース・トンネル(新アルプス横断鉄道NEATプロジェクトとして計画)で十分ではないかという。
 反対派の代替案はどんなものかというと、2本目のトンネルは造らない。そして、980日間、現在のトンネルを閉鎖して改修を行い、代行輸送として、一般道と鉄道を用いるというものである。この場合の費用は、14億3千万~16億5千万スイスフランが見積もられる。こちらの方が安くつくことになる。
  いわゆる右派の人々が賛成で、左派が反対に回っているのに加えて、スイスにおける南北間の意見の相違があるらしい。ティチーノ州の人々にとって、トンネルの拡充は、アルプスの北の地域との結びつきの強化となり、反対派が主張するトンネルの一時閉鎖は経済的な死活問題である(反対派の人々は、ティチーノ州の過半の人々は反対であると言っているが)。
 投票は、来る2月28日。さて、スイスの人々はどんな結論をだすであろうか?



 

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