2016年2月21日日曜日

ヨーロッパを安く移動する(2)

 さて、前回は鉄道やバスによる長距離移動において安く移動する方法について述べた。一方、ヨーロッパにおいて各都市において、バスやトラム、地下鉄などを1枚のチケットで、また一日券や3日券で格安に乗車できるシステムがあることはよく知られている。ドイツではVerkehrsverbund運輸連合という組織のもとで、こうしたシステムが運営されている。この運輸連合のあり方の詳細については、土方まりこ 2010. ドイツの地域交通における運輸連合の展開とその意義. 運輸と経済 70(8):85-95.(http://www.itej.or.jp/assets/www/html/archive/jijyou/201008_00.pdf)において紹介されており、この文献の95ページにドイツにおける運輸連合の分布図が、ドイツ鉄道アトラスに基づいて示されている。ここであまり注目されていないようであるが、興味深いと思えるのは、個々の運輸連合の領域が拡大しているのではないかということである。分布図をみると大都市ほどその運輸連合の管轄域が広い。都市圏の拡大に伴って実際に運輸連合は拡大してきたのか、変化プロセスを追ってみてもおもしろいかもしれない。

 一回券にせよ一日券にせよ、ある都市圏における交通においてはゾーン制がとられており、街の中心、旧市街あたりだけであれば安く、都心から離れたところへ行こうとするほど当然であるが高くなる。とはいえ、前述のように、運輸連合の範囲が広くなっているので、うまくチケットを使えば思いの外安く、遠くへ小旅行が可能となる。たとえば、ドイツの大学都市ハイデルベルクを含むライン・ネッカー運輸連合を例にとってみよう。ここに3、4日滞在するとしてライン・ネッカー圏全体の交通(路面電車やバス、国鉄など全て、特急を除く)を利用できる3日券を42.3ユーロで買う。これでハイデルベルク市内全域を自由に乗り降りができるし、マンハイムに足を伸ばして、トルコ人街でトルコ料理を味わい、さらにドイツ・ワイン街道まで、郊外電車か、とことこ走る路面電車ででかけてワインを楽しむこともできる。

 もっと広い範囲をカバーする運輸連合が、チロル州運輸連合であり、チロル州全体を管轄する。1週間のチケット54.6ユーロで、チロル中の鉄道、バス、トラムなどが利用可能である。チロルはけっこう山の中までバス網が設けられているので、使い出がある。インスブルックに滞在しつつ、西は、フォアルベルクの手前のスキーリゾート、サンクトアントンまででかけたり(夏もゴンドラが運行していてアルプスの雄大な風景が堪能できる)、東はチロル有数の高級リゾート、キッツビュールの町歩きを楽しんだりすることができる。チラータルの軽便鉄道に乗ったり、イン河谷の崖を登っていくインスブルックからゼーフェルトに至る眺望のよいルートをいくこともできる。また、オーストリアでは、特急料金というものがないので、チロル内であれば、RailJetと称するオーストリア国鉄の特急や、チロルを通過する国際特急ECなども利用できる(日帰りであれば身軽なので、ゆったり食堂車でビールを飲みながらチロルの風景を堪能できる)。

 かように都市内という近距離のみならず、中長距離においても、うまくチケットを使うことで、安く移動が可能である。このことは、旅行者のみならず、そこに住む人々にとっても同様であり、安価にモバイル(移動)できる環境があるわけである。



 

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