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2019年4月29日月曜日

ライプニッツ地誌研究所の「今月の地図」(2)-2:ドイツのビール

 前回の続きとなるが、2枚目の地図をみていただきたい。これは、2004年から2017年にかけてのビール醸造所の変化を示したものである。凡例の一番上の黄色い丸が、この期間において変化なく存続しているもの、次のオレンジが新しく設立されたもの、最後の青が閉鎖された醸造所を示している。
 この時期における顕著な変化は、ハンブルク、ベルリン、ニュルンベルク、フランクフルト、ライプチッヒといった大都市において中小規模の醸造所ができた一方で、ほぼ全国のどの地域においても、非常に多くの醸造所が閉鎖されたことである。この間に醸造所の全体数は増加しているものの、これは多くの新規参入が、少なくはない閉鎖を上回ったことによる。こうした醸造所の閉鎖は、全ての規模の醸造所にみられるという。
 3枚目の地図は、ドイツにおける10大ビール醸造所の分布を示している。これらの大醸造所は、それまで独立して経営されていた中小の醸造所を傘下に収めることで規模を拡大してきた。図中の四角が、10大ビール醸造所(コンツェルン)の立地を示しており、小さな丸が、傘下のビール醸造所である。これらのコンツェルンは、全国を市場としており、テレビなどでも宣伝がなされて全国的に知られている(私もほとんど知っている)。凡例の下から2番目のCarlsbergカールスバークは、ハンブルクを拠点として、日本にも輸出されスーパーなどでみかけることがある。上から6番目、Paulanerパオラナー・グループは、ミュンヘンに位置し、バイエルンにおけるいくつもの醸造所を傘下とする。パオラナーという銘柄自体、とりわけ小麦のビール、ヴァイツェン・ビールが著名だが、日本にも入っており、飲めるお店もある。これもまたよく知られたレーベンブロイも、このグループの傘下であることが見て取れる。
 私の好きな、ピルスナーらしいピルスナーであるJeverイェーファーは、北部フリースラント地方のJeverで製造されているが、フランクフルトを拠点とするRadebergerラーデベルガーの子会社となっている。このラーデベルガー・グループは、2017年時点で、11億5千万リットルを生産し、世界のビール生産の0.6%を占めて20位に位置する。
 このように、ドイツにおいても世界や日本と同様に、クラフト・ビールを製造する中小の醸造所が増加している。そして、これらは、消費地である大都市を中心に立地する傾向にある。一方で、大醸造所に中小の伝統的な醸造所が飲み込まれ、生産がこれら大醸造所に集中するという方向性もみられる。ここで、ブレーメンにある Anheuser-Busch InBevアンハイザー・ブッシュ・インベブは、世界のビールの3分の1を製造するベルギー資本であり、パオラナー・グループには、オランダのハイネケンが3割の出資をしている。すなわち、ドイツのビール製造は、ローカル化が進展している一方で、グローバル化の波に飲み込まれつつあるともいえる。
 

2019年4月26日金曜日

ライプニッツ地誌研究所の「今月の地図」(2)-1:ドイツのビール

 新学期が始まり、歓迎会、新歓コンパなど飲む機会も多い(新学期だけではなく年中だろう、という声も聞こえてきそうだが、、、)。それにちなんで、ようやくに、ライプニッツ地誌研究所の「今月の地図」の第2弾として、「ドイツのワイン」に続いて「ドイツのビール」をとりあげたい。
 学生時代にドイツにいた頃には、むろん毎日のようにビールを飲んでいた。全国で販売されている言わばナショナル・ブランドのビールもあったが、それぞれの町や地方で生産され、そこでしか販売されないビールも多かった。ビールは、そのビールが生産されたビール工場の煙突の見えるところで飲め、と誰かから言われたものである。それぞれが個性ある味わいをもつ、日本でいえば地酒のようなものであろうか、そして何よりも新鮮さが大事ということであろうか。ドイツから帰国して、友人等に帰国の会を開いてもらって、そこで「これが今、日本で流行っているビールなんだぜ!」と飲まされた某社の某ビールを飲んで、「これがビールか?ビールじゃないだろう!」と驚いたことを鮮明に覚えている。日本でもドイツでも基本的に同じピルスナー・タイプのビールが主であるが、日本では、一気に飲み下すことを前提に、のどごしを重視するのに対して、ドイツでは、ビールを日本酒のように舌の上で味わいながら楽しむのではないか。ビールの飲み方の違いが、ビールの「造り」の違いをもたらしているのかもしれない。
 さて、次の地誌研究所のHPは、ドイツのビール醸造所を取り上げている。
http://aktuell.nationalatlas.de/brauereien-3_04-2019-0-html/
 この1枚目が、2017年におけるドイツのビール醸造所の分布、2枚目が、2004年~2017年における醸造所の変化、3枚目が、ドイツにおけるビール・コンツェルン(10大ビール企業)とその立地、そして、グラフの1枚目が1956年~2018年におけるバイエルン州とその他ドイツの醸造所数の変化(バイエルンだけが別になっているのがなんとも、、、)、グラフの2枚目が、2004年~2018年における規模別ビール醸造所の変化を示している。
 ドイツは世界で最もビール醸造所の分布密度が高い。ここで、ドイツの10大ビール企業が、市場の約3分の2を占めている一方で、クラフトビールの流行も相まって、小規模なビール醸造所も増えている。この傾向はとりわけ大都市において顕著である。ドイツ全体では、約1500の醸造所があるが、その半分以上はいわゆるマイクロ・ブルーワリーである。
 1874年、ドイツ帝国のもとで、ビール醸造所はなんと2万8千カ所あったが、第2次大戦後には、様々なデータがあるが、おそらくは1万強までに減少した。そして、1988年に至っては、1168カ所までとなる。 背景には、工業化の進展や醸造所の吸収合併があり、レストランや農業と兼業で行われていたビール醸造が消失していったという。
 1980年代になって、伝統的な地方のビールを好むという消費性向が現れ、こうした縮小傾向に歯止めがかかる。さらに、2000年代になって、マイクロ・ブルーワリーが流行りだす。伝統的な小規模ビール醸造所が再発見されるだけではなく、北米やイギリスの影響を受けて、新しくマイクロ・ブルーワリーが拡散しはじめた。これらは、小規模で、ビールはホップとモルツ、酵母、水だけしか原料としてはいけないという「ビール純粋法」を無視するものであった。そして、アングロ・アメリカで好まれるような味が求められ、上面発酵のエールやIPAのような強い香りと独特の風味を持ち、アルコール度数が高い。
 2017年において1500あるビール醸造所のうち半分以上が、年間生産量10万リットル以下の小規模醸造所である。これらの市場シェアは、0.3%に過ぎない。一方で、26大ビール醸造所が全体の市場の6割を占めている。
 最初の図「2017年におけるビール醸造所」によると、ドイツにおける南北格差が明瞭である。バイエルン州(657カ所)とバーデン・ビュルテンベルク州(214カ所)でドイツ全体の半分以上を占めている。バイエルン州内では、バンベルク周辺のオーバーフランケン西部で分布が密であり、ここは世界でも突出してその密度が高い。この高密度は、かつて司教から与えられた醸造権という歴史的な特異性に起因するものである。ちなみにこの辺りは、フランケン地方の中でもビール醸造所が集中することから「ビール・フランケン」と呼ばれる一方、この西部、ビュルツブルクを中心とする地方は、ワインの産地であり、「ワイン・フランケン」と呼ばれる。
 ヨーロッパにおけるドイツの位置をみると、EU全体のビール醸造所の半分以上がドイツにあり、次いで、イギリス(667)、オーストリア(168)、ベルギー(115)、デンマーク(105)となる。逆に、1醸造所あたりの生産量は、760万リットルと最低である。

(続く)



 
 

2016年4月13日水曜日

ライプニッツ地誌研究所の「今月の地図」(1)

 ライブニッツ地誌研究所IfLは、ライプチッヒにあるドイツで唯一の大学外の地理学研究機関である。現在、75名が従事し、年間予算は430万ユーロにのぼる。

 この研究所の起源は1896年にまで遡る。当初は、ライプチッヒ民俗博物館が、地質学者Alphons Stübel のコレクションを展示していたが、1907年に地誌学博物館として独立し、1930年代以降は研究にも従事した。第2次大戦後、1950年から、 Edgar Lehmannの指導の下で、ドイツ地誌研究所として旧東ドイツの中心的な地理学研究機関となる。1976年以降、科学アカデミーの中における、地理学・ 地生態学研究所IGGとなっていく。

 IGGの解体後、1992年に現在のかたちの地誌学研究所が設立される。ちょうどその年、この研究所を始めて訪れた時には、まだライプチッヒ博物館の中にあった。書庫も見せてもらったが、それまで見たこともない古書、地図類がところせましと並んでいた。1996年にライプチッヒ郊外の現在の場所に研究所は移転した。2003年にLeibniz-Institut für Länderkundeと改称する。ライプニッツLeibnizは、かの著名な数学者にして哲学者、研究所の位置するライプチッヒの出身である。

 この研究所は、今日、ドイツにおける地誌学研究の中心として、Beiträge zur Regionalen Geographie、Europa Regionalなどをはじめとする各種刊行物を発行している。

  さて、この地誌研究所のホームページhttp://www.ifl-leipzig.de/en.htmlの右に、「今月の地図」として、特定のトピックに関する主題図が掲載されており、定期的に入れ替わる。現在トップにある主題図は、ドイツのワイン生産に関するものである(http://aktuell.nationalatlas.de/wein-2_03-2016-0-html/)。

 なんでもEUでは、2016年からワイン用ブドウ栽培の認可制度を変更したとのことである。これまで、ワイン用ブドウは生産過剰の状態にあり、生産面積の拡大は認められなかったが、加盟国は、年間1%までの栽培面積の拡大ができるようになった.背景には、ワインの世界市場の変化、とりわけ、ヨーロッパ以外においてワイン需要が拡大し、ヨーロッパにとって新たな輸出のチャンスが増えたことがある。

 この地図をみると、ドイツにおけるワイン生産地帯(13の原産地認定ワイン生産地域がある)は、ドイツ南西部に集中している。なかでも、ライン川とその支流(モーゼル川やマイン川など)流域が主要な生産地域で、これらを含むラインラント・プファルツ州とバーデン・ビュルッテンベルク州でドイツワイン生産の9割近くを占めている。

 ドイツと言えば白ワインである(地図の凡例のWeßer Rebsortenが白ワイン Rote Rebsortenが赤ワイン)。しかし、近年、赤ワインの生産が伸びており、赤ワインの面積比率は24.1%(1999年)から35.1%(2014年)に増加しているという。

 そしてドイツの白ワインと言えばリースリングである(白ワインの一番上の黄色)。ドイツのワイン用ブドウ品種の4分の1がリースリングであり、ここ15年間、そのシェアに大きな変化はない。そして、リースリングが卓越して生産されるのは、13の生産地域のうちモーゼルとラインガウである。一方、他の白ワイン用ブドウ品種には大きな変化があり、グラオブルグンダー(ピノ・グリ)やバイサーブルグンダー(ピノ・ブラン)が著しく増加し、一方で、ミュラー・トゥルガウやケルナーが減少している。

 赤ワインで最も生産が多いのは、シュペートブルグンダー(ピノ・ノワール、凡例の赤)であり、南部、バーデン地方で高いシェアを占めている。近年、赤ワインで生産が伸びているのは、ドルンフェルダー(凡例のオレンジ)であり、赤ワインの中で栽培面積は第2位である。ドルンフェルダーは色の濃いワインで、元来は色づけのために他のワインに混ぜていたという。しかし、今日、現代的なワインとして人気を博している。

2016年4月5日火曜日

マップ・リテラシー

 マップ・リテラシーとは、地図を読み、使いこなす能力である。今日、カーナビやネットで、地図と身近に接する機会が増えてきた。だからといって、地図を有効にかつ適切に使えているだろうか?東西南北という絶対的な座標軸がもてなくなっている、そして縮尺の概念があいまいになっている、そうした問題が生じているのではないか、と思う。

 ノース・アップ、地図は北を上にしてみる。実はこれが重要である。私が大学に入った1年目の夏、地形学のI先生の調査のお手伝いで、北海道の手塩に連れて行ってもらったことがあった。むろん、地形図をもって歩く。彼が私に言ったことは、「地図は、今みている方向に合わせてぐるぐる回すのではなく、必ず北を上にしてみなさい。地図に合わせて逆に頭の中で現実を回転させなさい」。それ以来、彼の指示は守っている。こうすることで、絶対的な座標系の中で、そしてまた、町や村という大きなスケールでも、そして日本という小さなスケールでも、今、自分がどこにいるか位置づけることができ、自分が東に向かっているのか、南に向かっているのか、認知することができる。

 さて、カーナビやスマホの地図では、向かう方向に地図が回転するようにできるし、そのように利用している人も多かろう。これはこれで認識しやすく便利だが、絶対的な座標系の中で、自分を位置づけることはできない。右に曲がる、左に曲がる、、、常に相対的な位置の認知となり、様々なスケールにおける自らの位置づけも不可能となる。現代の便利な機器は「方向音痴」を増やすことになるのではなかろうか。

  次に、縮尺、スケールの問題である。カーナビで容易に地図の拡大縮小ができるし、グーグルマップなど、ネットの地図も大きくしたり小さくしたりできる。だが、今、自分がどれほどの縮尺で地図をみているのか、そうした意識が希薄であろう。地図は現実をある特定のスケールで縮小したものである。紙の地図であれば、2万5千分の1とか5万分の1とか、一定の縮尺の地形図しかなかった。福岡の街も、札幌の街も同じ縮尺で眺めていた。一方、ネットの地図では、福岡の街をどんどん拡大してみて、再び、縮小し、日本全体の地図にして、札幌近辺に移動して、札幌の街を拡大してみてみる。画面の隅にスケール・バーが示されているとはいえ、最初に福岡をみた縮尺と、今、札幌をみている縮尺が同じかどうかわからない!固定された縮尺で二つの街をみることで可能であった街の広がりの比較も、ネットの地図では容易ではないわけである。

 加えて、同じ15インチのディスプレイで地図をみるとして、そのディスプレイの解像度によって、縮尺と情報量が異なってくる。15インチであったとしても、XGA1024x768ドットとFHD1920x1080ドットでは、同じ範囲の地図を表示した時、縮尺は異なるし、同じ縮尺で表示した時に、表示される範囲は異なってくる。そして、どちらにせよ、ディスプレイで示される地図のもつ情報量は、印刷された地図がもつそれにはとてもかなわない。電子ブックが普及しつつあるといわれるが、パソコンやタブレット、スマホのディスプレイは印刷物の地図に容易に取って代わることはできないのではないだろうか、、、





 

2016年3月11日金曜日

ドイツの放射線観測網(2)

 さて、ドイツにおいて原発の事故など緊急事態があった場合、放射能汚染がどこでどれくらい広がっているのか、そしてこれから広がる可能性があるのか、それを予測するシステムについてである。ドイツでは、このシステムをIMIS(Integrierten Mess- und Informationssystem統合観測・情報システム)といい、これは、PARK(Programm für die Abschätzung Radiologischer Konsequenzen放射線レベル評価プログラムとRODOS(Realtime Online Decision Support Systemリアルタイム・オンライン・意思決定サポートシステムから構成されている。このシステムによって、ドイツ各地における環境内の放射性物質とそれによる人間の外部被曝(大気中の放射性物質による)、内部被曝(摂取する汚染された食料による)が見積もられることとなる。ここで、拡散の予想には、ドイツ気象庁の気象予報も用いられる。

  このシステムによる予測結果は、地図に示される(ここでも地図というかたちの表現が用いられる!)。これにより、各地においてどの程度の汚染の可能性があるのか、そしてどんな防護手段が必要なのか、判断ができる。例えば、下図は、2005年4月14日にマンハイム周辺で放射性物質が放出された場合、4月16日まで葉物野菜におけるヨウ素131の汚染がどれくらいかシミュレーションしたものである。EUの基準が2,000ベクレル/kgなので、緑から黄色にかけての地域が基準値以下であり、オレンジから紫の地域が基準値を超えている。この地図において放射能汚染の程度は、市郡単位で示されており、どの地域の野菜が危険か、生産者も消費者も容易に把握することができる(千葉県のある観測点において放射線量の値が高いからと言って、千葉県全体が同様に高いとは限らない)。いざというときに(放射能汚染の可能性があるときに)、個々人がどう行動すればよいのか、支援するシステムが構築されている。同じようなシステムがもしあったなら、福島の、とりわけ原発に近い地区の人々の被爆はもっと小さいものにできたかもしれない。そして今も、原発を稼働させ続けるのであれば、事故のリスクを小さくすることはむろん重要であるが、リスクがゼロと言うことはありえず、もし事故が起こった際の放射能汚染に備えておくことは必要であろう。

http://www.bfs.de/DE/themen/ion/notfallschutz/entscheidungshilfen/entscheidungshilfen_node.html;jsessionid=3C6E254B61484702E2480CF5E9B1092A.1_cid374






2016年3月10日木曜日

ドイツの放射線観測網(1)

 先日、NHKスペシャル「“原発避難”7日間の記録〜福島で何が起きていたのか〜」を見た。もう少し掘り下げてほしいかなとも思ったが、目に見えない放射能に対して住民の方々のもつ不安はひしひしと伝わってきた。

  私は、1986年の6月に渡独し、1988年10月までドイツに滞在した。この渡独直前の4月にチェルノブイリの原発事故が起こり、西ヨーロッパへも放射能汚染が拡大することとなった。ドイツでも南部バイエルン州を中心として高濃度の汚染に見舞われている。当初は全く気にもとめていなかったし、大学の周りの教員も学生も気にしていないと言っていた。ところが、身近で放射能汚染を深刻に受け止める人がいて、自分も気にしなくてはいけないような気分になってきた。実際、リベラルな新聞Frankfurter Rundschau(日本でもよく引用されるFrankfurter Allgemeineとは別)には、週末になると、「今週の放射能」と称して、牛乳からは何ベクレル、牛肉からは何ベクレル、放射能が検出されたという記事が出されていたし、住民団体が、小冊子をだして、どの銘柄の牛乳はどれくらいの汚染があるかなど、食品毎に汚染の数値を示していた。全く気にせず生活を送る人々、一方で、放射能汚染を深刻に捉えて行動する人々、福島原発事故の日本と同様の状況が当時のドイツでも存在していたわけである。

 当時は、まだインターネットもなく、情報源は限られていた(しかもドイツ語!)。今、目前にし食べようとしている食品の中に、もしかして害があるかもしれない放射能が含まれている、と思うだけで、おいしくないし、大丈夫かと不安になってくる。鹿やイノシシなど野生動物やキノコなど特に汚染が激しいとされていた中で、フィールドとしていたチロルの村の民宿で、同宿のスイス人夫婦から、採ってきたというキノコの料理をニコニコしながら勧められ、「ありがとう!」と答えつつ口にした時の気分、、、。かような経験から、福島で放射能に対して不安に思う人々の気持ちはよくわかる、と思う。

 ドイツでは結局のところ、放射能に汚染された食品を2年近く食べてきたことになる。「またかよ!」と、福島の原発の放射能が関東にも風に乗って運ばれてくると聞いたときに呆然としてしまった。で、いつどれくらいのレベルの放射線物質が襲ってくるのか、そしてそれが屋内に待機すべきレベルなのか、あるいは避難すべきレベルなのか、よくわからないわけである。しかし、ドイツにいたときとは異なり今回は、インターネットがある。そこで、インターネットを活用してどう行動したか、加えて放射線のリスクをどう評価したか、まず紹介してみたい(2011年10月に埼玉県男女共同参画推進センター(With You さいたま)と埼玉大学の合同の公開講座「ポスト3.11を生きる-何ができるか、何をすべきか-」の中で「「災害のリスクを評価する-情報の海の中から」という題で話した)。

 事故直後はまだ、ネット上で、全国各地で自分の住んでいる場所の放射線量は把握することはできなかった。ただ各地の原発周辺ではモニタリングがされており、ネットでも公開はされていた(福島の周辺のものは故障で見られない状態が続いた)。関東では、茨城県北部東海村に原子力関連施設が立地しており、周辺数十箇所で、茨城県環境放射線監視センターが放射線量のモニタリングをしており、ネット上でリアルタイムで線量の変化をみることができた。ここは、福島第一原発から首都圏に向かう途中であり、この観測地点で線量が上がることは、その後、首都圏でも線量が上がると予想される。むろん、それは風向きによる。風がどの方向にこれから吹くのか、GPV気象予報http://weather-gpv.info/を利用した。ここは、5kmメッシュ単位で、風向その他の予報を39時間先まで行っている。茨城北部の観測ポイントで線量が上がり、関東北部で南西寄りの風が続くようであれば、首都圏に放射性物質が及ぶ可能性が高くなる。ただ実際に線量が上昇しているかはわからない。そこで参考にしたのが、東京日野市に在住する個人のサイトで、自らのガイガーカウンターによる放射線量の観測結果を公開するものであった。茨城で線量が上がり、その後、日野で上がれば、確実に、埼玉や東京でも線量が上がっていよう。

  その後、各地で、放射線量の公開が行われるようになっていったが、埼玉県で1カ所、東京とで1カ所などわずかであり、面を広く覆うようなものではなかった。さいたま市の線量は、秩父のそれとは当然異なるわけであり、さいたま市の線量をもってして埼玉県の線量を代表させることは乱暴である。では、チェルノブイリの被害を受けたドイツではどうか。ドイツ連邦放射線防護局のサイトhttp://odlinfo.bfs.de/index.phpでは、リアルタイムでドイツ全土の放射線量のレベルを地図のかたちで公開している。ドイツのどこで線量が高いか低いか一目瞭然であり、観測ポイントをクリックすると、グラフで線量の時系列的変化もみてとれる。観測ポイントは1800カ所であり、非常に密にかつ面を覆うように設けられている。このようなシステムがあれば、上に書いたようなことはする必要はなかった。現在、日本でも原子力規制委員会が、放射線モニタリング情報http://radioactivity.nsr.go.jp/map/ja/を提供している。公開が進んでいることは評価できるが、観測ポイントに偏りがあり国土全体を覆っていないし、また、都道府県単位、市町村単位でしか表示できず、福島県全体あるいは関東全体の線量の分布を俯瞰することが残念ながらできない。気象観測のアメダスは、全国にまんべんなく(ドイツ語でflächendeckende面を覆うように、この形容は、地域計画・空間整備にも使われる。17km間隔で1,300カ所)設けられている。このアメダスに放射線量の測定装置を付加するだけで、ドイツと同様のシステムが簡単にできるような気がするが、どうだろうか。 さて、この件のサイトで南部バイエルンの観測ポイントでも色の濃いところをクリックしてみてほしい。0.12から0.15μSv/hくらいで推移するところがけっこうある。このレベルは実は福島の中通り、福島市や郡山市のレベルとそう異ならない。また、東京よりもミュンヘンの方が値が高い。ドイツを含むヨーロッパでは、現在でも食品から放射能が検出されるし、チェルノブイリを未だ引きずっている。

  ドイツは、脱原発を打ち出したが、稼働中の原発は国内にもあるし、お隣フランスでは、原発は58基あり、事故による放射能汚染の可能性がないわけではない。この観測システムは、事故など緊急事態の際の汚染予測にも使われている(日本のSPEEDIと同様のシステムといえるが、ドイツでは各地の実測値も利用してる)。その予測については次回と言うことで。

 
 




2016年3月1日火曜日

ゴッタルド・トンネルその後

 28日(日)に行われたゴッタルド・トンネル建設を巡るスイスの国民投票の結果だが、賛成が188万、反対が142万、賛成が57%を占めて、2本目のトンネルが掘られることとなった(Tages Anzeigerというスイスの新聞のサイト http://www.tagesanzeiger.ch/schweiz/standard/resultate-gotthardroehre/story/20844341)を参照)。
 このTages Anzeigerのサイトをみてもらいたのだが、スイスのcanton州ごとの投票結果が地図で示されていて、州ごとにどこで賛成が多かったか解説している。それによると、反対が多かったのは、スイス西部のジュネーブ州とヴォー州(ローザンヌが州都)の2つだけであった(件のゴッタルドから遠い。そしてフランス語圏)。賛成の比率が69%と最も高かったのは、シュヴィーツ州とアールガウ州(ドイツ語圏)であり、当事者ともいえるウーリ州やティチーノ州では賛成が多数を占めたがそれほどでもなかった。これらの州では、世論が賛成反対、二分されたという。さらに、トンネルの南ティチーノ州ではゲマインデ(市町村)ごとに意見が分かれ、トンネルの出口に位置するアイロロでは76%が賛成だったが、反対が多数のゲマインデもあった。
 28日の国民投票では他のテーマについても投票がされている。こうした政策に対する評価、意識がスイス国内の場所ごとに如実に異なることが面白い。加えて、新聞などメディアも、主題図を多用して、地域差に注目し、解説している点も興味深い。スイスだけではなく、ドイツのメディアも同様であり、日本のメディアにおける地図の利用とはずいぶんと差があるように思う。確実に各メディアは地図の専門家カルトグラファーを使っている。頻繁に主題図がメディアに載ることで、読者の地図の見方や使い方、いわゆるマップ・リテラシーを高めることになるのではないだろうか。