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2020年5月15日金曜日

ドイツにおける新型コロナ・ウィルス

 今週からオンラインで授業が始まった。ライブであっても録画であっても、ただ喋るだけの授業はしないよう、お達しがあり、音声付きパワポ・ファイル、それと同じ内容のpdfファイルと音声ファイルを用意し、時折リアルなやりとりを交えつつ授業を行う。これが準備になかなかの時間がかかり大変である。ここにきて東京近傍でも全国でも、新型コロナの感染者数が減少してきている。このまま早く収束し、早くに通常通りの授業に戻ってもらいたいものである。

 さて、新型コロナの感染は欧米で著しい。ドイツでは、他のヨーロッパ諸国よりも被害は小さいとはいえ、多くの感染者、死者を出している。そして、ドイツでは、ロベルト・コッホ研究所がこの新型コロナの感染状況の把握や分析を担っている。コッホは、いうまでもなく結核菌などいくつもの細菌を発見し、ノーベル賞を受賞した細菌学者である。このコッホ研究所は、1891年、プロイセンによって彼を招聘して設立された研究所の後継である。現在は、ドイツ連邦健康省の傘下にあり、疾病、とりわけ感染症のサーベランス(監視・調査・情報収集)、評価、予防を担っている(https://www.rki.de/DE/Home/homepage_node.html)。従って、今回の新型コロナについても、このコッホ研が情報を集め評価を行っている。

 コッホ研は、毎日、ドイツにおける感染状況とその評価を「日報」として報告し、かつ、以下のように感染状況を可視化(グラフにしたり地図にしたり)している。

https://experience.arcgis.com/experience/478220a4c454480e823b17327b2bf1d4/page/page_1/

 さらには、 データをcsv形式やshp形式などで提供している。後者のshp形式であれば、GISのソフトで表示が可能であり、以下の図は、実際にこのデータをダウンロードし、地図化してみたものである。

2020年5月14日現在におけるドイツの市郡別10万人当たり感染者数の分布

  この図をみてみると、ドイツ国内で感染状況に大きな地域差があることがわかる。大きく、ドイツの東西(旧東ドイツと旧西ドイツ)で異なり、旧東ドイツで少なく旧西ドイツで多い。そして旧西独においても、南部バイエルン州とバーデン・ビュルッテンベルク州で明らかに値が高くなっている。こうしたドイツにおける感染状況の明瞭な地域差をどのように説明できるだろうか?極めて地理学的な課題である。

 日本における感染状況をみると、東京や大阪などの大都市とその周辺で感染が広がっており、人口が少なく人口密度の低い地方において感染はそうひどくはない。ドイツにおいても同様に、人口が多く人口密度の高い都市部において感染が拡大していると考えられる。実際、ドイツ西部は、都市化が進展し人口密度も高く、ドイツの経済の中核をなしている。一方で、ドイツ東部は一般に人口が希薄であり、おしなべて感染率が低い。東部で感染が多くみられるのは都市部、ベルリンとその周辺、そして、ドレスデンなど大都市が位置するザクセン州である。北部の周辺的なメクレンブルク・フォアポンメルン州では、感染者はあまりみられない。人口密度の高い都市部においては人の流動も多く、人と人との接触機会も多く、感染者を多くだしているのに対して、人口希薄な周辺農村においては、その逆であると想定されるわけである。

  ただ、よく図をみてみると、同じドイツ西部の都市化の進展した地域の中でも、ニーダーザクセン州やヘッセン州など人口当たり感染者数が少ないところもあれば、ドイツ南部バイエルン州やバーデン・ビュルッテンベルク州の中においても、人口密度の低い農村地帯で感染者数の多いところが多々存在していたりする。一概に、人口密度、都市化の程度のみで説明できるわけではないと考えられる。

 それでは他にいったい何で説明することができるのだろうか?ネット上で話題になっているのがBCG仮説である。これは、結核に対するワクチンが、他の細菌・ウィルスにも作用する訓練免疫という機能をもち、新型コロナをかかりにくくし、また、かかったとしても重症化を防いでいるのではないか、という説である(https://www.jsatonotes.com/2020/03/if-i-were-north-americaneuropeanaustral.html)。

 BCGは結核予防のワクチンであり、日本では、はんこ注射とも呼ばれ、現在に至るまで接種が義務となっている。実は、ドイツにおいては、旧東ドイツでは、第2次大戦後、BCG接種が義務化されたが、旧西独では、接種は推奨されていたものの、義務ではなかった。そして、単年度のデータではあるが、旧西独でもニーダーザクセン州ではBCG接種率が高く、バイエルン州やバーデン・ビュルッテンベルク州ではBCG接種率が低かったことが知られる(Kreuser, F. 1964. Tuberkulose-Jahrbuch 1962:94)。新型コロナの感染者数にみられる旧東西ドイツにおける差異、そして旧西独における南北の差異は、BCG接種の差異によって説明できる可能性がある。

 次の図は、ドイツとベルリンの2007年におけるインフルエンザ・ワクチンの接種状況を示している。
2007年のドイツにおけるインフルエンザ・ワクチン接種率
(出典:Riens, B. et.al. 2012. Analyse regionaler Unterschiede der Influenza-Impfraten in der Impfsaison 2007/2008.p.5 https://www.versorgungsatlas.de/fileadmin/ziva_docs/2/Influenza_Bericht_1.pdf)


2007年のドイツにおけるインフルエンザ・ワクチン接種率(出典:同上)

 この図自体、非常に興味深いものである。旧西独ではワクチンの接種率が低く、旧東独では高い。ドイツが統一して17年たった後も、あたかもそこに国境があるかのようである。ベルリンの図をみても、今でもベルリンの壁が厳然として存在しているかのようである。BCGだけではなくワクチン接種が義務化されてきた旧東独の人々は依然としてワクチン接種を積極的な受けいれている。一方で、旧西独では、ワクチン接種を忌避する傾向が強い。旧西独の南部、バイエルン州やバーデン・ビュルッテンベルク州では、さらに、インフルエンザ・ワクチン接種率が低くなっている。このように、ワクチン接種に対する意識、それに基づく接種行動に東西で明瞭な差異があり、この差異は過去におけるBCGなどのワクチン接種の差異を反映していると想定される。実はまた、この後、2009年の新型インフルエンザの流行も旧西独の方が旧東独よりも著しかったことがわかっている(https://www.welt.de/wissenschaft/schweinegrippe/article5311202/Achtjaehrige-an-Herzmuskelentzuendung-gestorben.html)。

 むろんある事象の分布とある事象の分布が類似しているからといって、両者に関係があるとは限らない。ましてや両者に因果関係があるとは軽々にいえない。この旧東西ドイツにおける新型コロナ感染の差異は、ドイツにおいても注目され話題になっているが、先のコッホ研究所の研究者も、BCG接種と新型コロナ感染の関係については、科学的に証明されているわけではないと述べている(https://www.spiegel.de/wissenschaft/medizin/bcg-impfung-wie-eine-tuberkulose-impfung-vor-covid-19-schuetzen-koennte-a-e42fa217-bc10-4c1a-890f-dd058177504e)。 とはいえ、その研究は進められている。翻って日本。欧米に比較して圧倒的に感染者数、死亡者数は少ない。それは、マスクや手洗いという衛生に気を配る習慣からだけで説明できるものであろうか。ドイツの例が示すように、義務化されているBCG接種が寄与している可能性はないのだろうか。専門家の方々の解明をまつものである。


 







2019年4月29日月曜日

ライプニッツ地誌研究所の「今月の地図」(2)-2:ドイツのビール

 前回の続きとなるが、2枚目の地図をみていただきたい。これは、2004年から2017年にかけてのビール醸造所の変化を示したものである。凡例の一番上の黄色い丸が、この期間において変化なく存続しているもの、次のオレンジが新しく設立されたもの、最後の青が閉鎖された醸造所を示している。
 この時期における顕著な変化は、ハンブルク、ベルリン、ニュルンベルク、フランクフルト、ライプチッヒといった大都市において中小規模の醸造所ができた一方で、ほぼ全国のどの地域においても、非常に多くの醸造所が閉鎖されたことである。この間に醸造所の全体数は増加しているものの、これは多くの新規参入が、少なくはない閉鎖を上回ったことによる。こうした醸造所の閉鎖は、全ての規模の醸造所にみられるという。
 3枚目の地図は、ドイツにおける10大ビール醸造所の分布を示している。これらの大醸造所は、それまで独立して経営されていた中小の醸造所を傘下に収めることで規模を拡大してきた。図中の四角が、10大ビール醸造所(コンツェルン)の立地を示しており、小さな丸が、傘下のビール醸造所である。これらのコンツェルンは、全国を市場としており、テレビなどでも宣伝がなされて全国的に知られている(私もほとんど知っている)。凡例の下から2番目のCarlsbergカールスバークは、ハンブルクを拠点として、日本にも輸出されスーパーなどでみかけることがある。上から6番目、Paulanerパオラナー・グループは、ミュンヘンに位置し、バイエルンにおけるいくつもの醸造所を傘下とする。パオラナーという銘柄自体、とりわけ小麦のビール、ヴァイツェン・ビールが著名だが、日本にも入っており、飲めるお店もある。これもまたよく知られたレーベンブロイも、このグループの傘下であることが見て取れる。
 私の好きな、ピルスナーらしいピルスナーであるJeverイェーファーは、北部フリースラント地方のJeverで製造されているが、フランクフルトを拠点とするRadebergerラーデベルガーの子会社となっている。このラーデベルガー・グループは、2017年時点で、11億5千万リットルを生産し、世界のビール生産の0.6%を占めて20位に位置する。
 このように、ドイツにおいても世界や日本と同様に、クラフト・ビールを製造する中小の醸造所が増加している。そして、これらは、消費地である大都市を中心に立地する傾向にある。一方で、大醸造所に中小の伝統的な醸造所が飲み込まれ、生産がこれら大醸造所に集中するという方向性もみられる。ここで、ブレーメンにある Anheuser-Busch InBevアンハイザー・ブッシュ・インベブは、世界のビールの3分の1を製造するベルギー資本であり、パオラナー・グループには、オランダのハイネケンが3割の出資をしている。すなわち、ドイツのビール製造は、ローカル化が進展している一方で、グローバル化の波に飲み込まれつつあるともいえる。
 

2019年4月26日金曜日

ライプニッツ地誌研究所の「今月の地図」(2)-1:ドイツのビール

 新学期が始まり、歓迎会、新歓コンパなど飲む機会も多い(新学期だけではなく年中だろう、という声も聞こえてきそうだが、、、)。それにちなんで、ようやくに、ライプニッツ地誌研究所の「今月の地図」の第2弾として、「ドイツのワイン」に続いて「ドイツのビール」をとりあげたい。
 学生時代にドイツにいた頃には、むろん毎日のようにビールを飲んでいた。全国で販売されている言わばナショナル・ブランドのビールもあったが、それぞれの町や地方で生産され、そこでしか販売されないビールも多かった。ビールは、そのビールが生産されたビール工場の煙突の見えるところで飲め、と誰かから言われたものである。それぞれが個性ある味わいをもつ、日本でいえば地酒のようなものであろうか、そして何よりも新鮮さが大事ということであろうか。ドイツから帰国して、友人等に帰国の会を開いてもらって、そこで「これが今、日本で流行っているビールなんだぜ!」と飲まされた某社の某ビールを飲んで、「これがビールか?ビールじゃないだろう!」と驚いたことを鮮明に覚えている。日本でもドイツでも基本的に同じピルスナー・タイプのビールが主であるが、日本では、一気に飲み下すことを前提に、のどごしを重視するのに対して、ドイツでは、ビールを日本酒のように舌の上で味わいながら楽しむのではないか。ビールの飲み方の違いが、ビールの「造り」の違いをもたらしているのかもしれない。
 さて、次の地誌研究所のHPは、ドイツのビール醸造所を取り上げている。
http://aktuell.nationalatlas.de/brauereien-3_04-2019-0-html/
 この1枚目が、2017年におけるドイツのビール醸造所の分布、2枚目が、2004年~2017年における醸造所の変化、3枚目が、ドイツにおけるビール・コンツェルン(10大ビール企業)とその立地、そして、グラフの1枚目が1956年~2018年におけるバイエルン州とその他ドイツの醸造所数の変化(バイエルンだけが別になっているのがなんとも、、、)、グラフの2枚目が、2004年~2018年における規模別ビール醸造所の変化を示している。
 ドイツは世界で最もビール醸造所の分布密度が高い。ここで、ドイツの10大ビール企業が、市場の約3分の2を占めている一方で、クラフトビールの流行も相まって、小規模なビール醸造所も増えている。この傾向はとりわけ大都市において顕著である。ドイツ全体では、約1500の醸造所があるが、その半分以上はいわゆるマイクロ・ブルーワリーである。
 1874年、ドイツ帝国のもとで、ビール醸造所はなんと2万8千カ所あったが、第2次大戦後には、様々なデータがあるが、おそらくは1万強までに減少した。そして、1988年に至っては、1168カ所までとなる。 背景には、工業化の進展や醸造所の吸収合併があり、レストランや農業と兼業で行われていたビール醸造が消失していったという。
 1980年代になって、伝統的な地方のビールを好むという消費性向が現れ、こうした縮小傾向に歯止めがかかる。さらに、2000年代になって、マイクロ・ブルーワリーが流行りだす。伝統的な小規模ビール醸造所が再発見されるだけではなく、北米やイギリスの影響を受けて、新しくマイクロ・ブルーワリーが拡散しはじめた。これらは、小規模で、ビールはホップとモルツ、酵母、水だけしか原料としてはいけないという「ビール純粋法」を無視するものであった。そして、アングロ・アメリカで好まれるような味が求められ、上面発酵のエールやIPAのような強い香りと独特の風味を持ち、アルコール度数が高い。
 2017年において1500あるビール醸造所のうち半分以上が、年間生産量10万リットル以下の小規模醸造所である。これらの市場シェアは、0.3%に過ぎない。一方で、26大ビール醸造所が全体の市場の6割を占めている。
 最初の図「2017年におけるビール醸造所」によると、ドイツにおける南北格差が明瞭である。バイエルン州(657カ所)とバーデン・ビュルテンベルク州(214カ所)でドイツ全体の半分以上を占めている。バイエルン州内では、バンベルク周辺のオーバーフランケン西部で分布が密であり、ここは世界でも突出してその密度が高い。この高密度は、かつて司教から与えられた醸造権という歴史的な特異性に起因するものである。ちなみにこの辺りは、フランケン地方の中でもビール醸造所が集中することから「ビール・フランケン」と呼ばれる一方、この西部、ビュルツブルクを中心とする地方は、ワインの産地であり、「ワイン・フランケン」と呼ばれる。
 ヨーロッパにおけるドイツの位置をみると、EU全体のビール醸造所の半分以上がドイツにあり、次いで、イギリス(667)、オーストリア(168)、ベルギー(115)、デンマーク(105)となる。逆に、1醸造所あたりの生産量は、760万リットルと最低である。

(続く)



 
 

2016年5月20日金曜日

チェーン店度:ドイツの商店街はどこも同じ?

 折に触れてドイツの街を訪れていると、その変化に気づかされる。あそこにあった模型を売るお店がなくなったり、伝統的な什器を売るお店が、モダンなデザインの食器を売るお店に変わったり、、、地場のお店がどんどん消え去り、代わって、ベネトンやらH&Mといったブランド店が、スタバやハードロックカフェといった飲食店が増えてくる。10万人規模の都市であれば、街並み、そして建築物は異なっていても、商店街に並ぶお店は金太郎飴のようにどこも同じ、という状況になりつつあるのではないか、、、
 昨年度、こうした問題意識から、M君が「ドイツ・ハイデルベルグにおける中心商業地の変容」という卒業論文を書いた。ドイツの各都市におけるチェーン店の立地状況を都市の人口規模毎に把握した上で、ハイデルベルクの中心商業地であるHauptstraßeの店舗構成をチェーン店の進出に注目し、現地調査によって明らかにしようとした力作である。
 チェーン店の進出は、ハイデルベルクにとどまらない。こうしたチェーン店の進出の度合いを、ドイツでは、Filialisierungsgrad「チェーン店度」という指標で示すことが行われている。Der Handel商業という雑誌のネット版(2011.05.18 https://www.derhandel.de/news/unternehmen/pages/Filialisten-Filialisten-draengen-in-die-Innenstaedte-7444.html)に、チェーン店がますます中心部に進出していると報じられている。
 以下が、この記事に掲載されているドイツ各主要都市におけるチェーン店度である。軒並み5割を越え、ドルトムントが74.6%と最も高い値を示しており、4分の3がもはやチェーン店となっている。この記事によると、2006年の時点からもっとも大きな変化を示したのがフランクフルトであり、2006年の50.9%から16.3ポイント増えている。フランクフルトでは、この間、ZARAやMiuMiu(Pradaの別ブランド)といったブランド店がドイツで初めて進出したという。このフランクフルトを含め、国際的なチェーン店の比率が高いのは、デュッセルドルフ、ベルリン、ハンブルクといった商業の中心としてよく知られる大都市である。


2008年の人口 国際的チェーン店 ドイツのチェーン店 地域のチェーン店 地元の店 チェーン店度2010年
Berlin 3,431,675 51,9% 13,4% 4,2% 30,5% 69,5%
Hamburg 1,772,100 47,3% 15,3% 3,4% 34,0% 66,0%
München 1,326,807 33,9% 12,7% 7,1% 46,3% 53,7%
Köln 995,420 41,4% 12,2% 6,3% 40,1% 59,9%
Frankfurt/Main 664,838 47,0% 17,7% 2,6% 32,7% 67,2%
Stuttgart 600,068 38,6% 18,0% 3,3% 40,1% 59,8%
Dortmund 584,412 43,5% 29,0% 2,2% 25,3% 74,6%
Düsseldorf 584,217 53,3% 13,1% 2,6% 31,0% 69,0%
Essen 579,759 36,1% 29,3% 2,7% 31,9% 68,0%
Bremen 547,360 41,3% 27,3% 3,5% 27,9% 72,0%
Hannover 519,619 36,2% 22,7% 5,4% 35,7% 64,3%
Leipzig 515,469 31,8% 20,1% 2,8% 45,3% 54,7%
Dresden 512,234 45,7% 21,7% 1,1% 31,5% 68,5%
Nürnberg 503,638 46,0% 20,9% 3,4% 29,7% 70,3%
Duisburg 494,048 28,1% 20,2% 7,0% 44,7% 55,3%

  興味深いことは、ミュンヘンにおいて、チェーン店度が53.7%と低く、かつ国際的チェーン店の比率も低いことである。この記事によると、ミュンヘンは特殊なケースという。ミュンヘンの旧市街は、多様な商店が立地するだけの十分なスペースがあるとともに、それらに対する高いニーズがある。したがって、国際的なチェーン店だけではなく、伝統的な家族経営の商店も成立しうるとのことである。
 はて日本において、ドイツと同じように「チェーン店度」で各都市を評価してみたら、どうだろうか?
  
 

2016年4月22日金曜日

ドイツ周辺の地震

 熊本の地震が一向に終息しない。亡くなられた方々にお悔やみ申し上げるとともに、被災され、避難を余儀なくされている方々にお見舞いを申し上げます。

 熊本近くに住む人によると、ずっと揺れが続くので、船酔いをしているかのような気分の悪さだという。安定した大地があってはじめて安寧もあろう。この点、ヨーロッパは安定しており地震もないといわれる。が、実は時折、地震が起こる。ドイツ連邦経済・エネルギー省のホームページ(http://www.bgr.bund.de/DE/Themen/Erdbeben-Gefaehrdungsanalysen/Seismologie/Seismologie/Erdbebenauswertung/Erdbebenkataloge/historische_Kataloge/BILD_germany_epic.html;jsessionid=3015E760CD05526E1332675790016C33.1_cid331?nn=1544984)に、西暦800年から2008年にかけて、ドイツとその周辺において発生した地震を強度別に地図に示すとともに(左図)、被害をもたらした地震を地図化している(右図)。この図をみるとケルンあたりからライン川に沿ってバーゼル周辺まで、シュトットガルト南のシュヴェービッシェ・アルプ周辺、ライプチッヒ南のゲラ周辺あたりで地震の発生が多い。合わせて、バーゼルから東へ、インスブルックを経てウィーンに至る帯状の地域でも地震がみられる。プレートテクトニクス理論によると、アフリカプレートとユーラシアプレートの境界が地中海を東西に走り、その北側にアルプスがやはり東西に延びる。アフリカプレートがユーラシアプレートに沈み込む動きからアルプスが形成されたのか、アフリカプレートとユーラシアプレートが衝突してアルプスが形成されたのか、よくわからない!が、いずれにしても、この図の南、イタリアでは地震が比較的多く、この図でもアルプスに沿って地震帯が存在する。アルプスの北においても、ライン地溝帯など構造線(断層帯)で地震が発生するようである。

 この地図では、地震の強度が示されているが、日本の震度とは異なり、ヨーロッパ地震強度EMS-92が用いられている。EMS-92は、人間の感じ方と建物の被害の状況に応じて、強度をⅠからⅫまで12段階に分けている。Ⅰは感じられない、Ⅴは、「強い」で、建物が揺れて、寝ている場合に起こされる。Ⅻは、ほとんどの建物が崩壊する壊滅的状況となる。右図は、強度Ⅵ(建物に軽い被害)以上の地震が示されているが、ケルンの西、フランクフルトからバーゼルにかけてのライン川流域、そしてウィーンやインスブルック周辺でもそれなりに地震の被害が過去にあったことがみてとれる。


  こうした過去における地震の発生状況をもとにして、ドイツ、オーストリア、スイスにおける地震の危険マップが作成されている( http://www.gfz-potsdam.de/sektion/erdbebengefaehrdung-und-spannungsfeld/projekte/bisherige-projekte/seismische-gefaehrdungsabschaetzung/d-a-ch/)。この図が掲載されているサイトは、ポツダムにあるドイツ地球研究センターのものだが、原図は、Grünthal, G., Mayer-Rosa, D., Lenhardt, W. (1998) Abschätzung der Erdbebengefährdung für die D-A-CH-Staaten - Deutschland, Österreich, Schweiz. Bautechnik 75(10), 753-767.にあり、作成方法が示されている。この地震危険マップには、先のⅠからⅫまでの地震強度に基づき、どこでどの程度の規模の地震が起きうるか示されている。ちなみに、この地図における数値は、50年間における90%の非超過確率で示されており、50年の間にこの値を越える地震が起きる確率が10%であるということである(私の理解が正しければ)。危険度が高いのは、当然だが、先に示したこれまで地震が生じてきたところである。

 オーストリア、チロルのインスブルックでもたびたび地震に見舞われてきた。したがって、下の写真に見られるように、 建物の柱の下部を前にせり出して補強をするなど、地震に備えてきた。日本で、いつどこで地震が起こってもおかしくないといえるが、ヨーロッパでも同じかもしれない、、、

インスブルックの旧市街。左の建物の隅の柱、右の向こう二番目の建物の柱、それぞれが通りにせり出している。


2016年4月13日水曜日

ライプニッツ地誌研究所の「今月の地図」(1)

 ライブニッツ地誌研究所IfLは、ライプチッヒにあるドイツで唯一の大学外の地理学研究機関である。現在、75名が従事し、年間予算は430万ユーロにのぼる。

 この研究所の起源は1896年にまで遡る。当初は、ライプチッヒ民俗博物館が、地質学者Alphons Stübel のコレクションを展示していたが、1907年に地誌学博物館として独立し、1930年代以降は研究にも従事した。第2次大戦後、1950年から、 Edgar Lehmannの指導の下で、ドイツ地誌研究所として旧東ドイツの中心的な地理学研究機関となる。1976年以降、科学アカデミーの中における、地理学・ 地生態学研究所IGGとなっていく。

 IGGの解体後、1992年に現在のかたちの地誌学研究所が設立される。ちょうどその年、この研究所を始めて訪れた時には、まだライプチッヒ博物館の中にあった。書庫も見せてもらったが、それまで見たこともない古書、地図類がところせましと並んでいた。1996年にライプチッヒ郊外の現在の場所に研究所は移転した。2003年にLeibniz-Institut für Länderkundeと改称する。ライプニッツLeibnizは、かの著名な数学者にして哲学者、研究所の位置するライプチッヒの出身である。

 この研究所は、今日、ドイツにおける地誌学研究の中心として、Beiträge zur Regionalen Geographie、Europa Regionalなどをはじめとする各種刊行物を発行している。

  さて、この地誌研究所のホームページhttp://www.ifl-leipzig.de/en.htmlの右に、「今月の地図」として、特定のトピックに関する主題図が掲載されており、定期的に入れ替わる。現在トップにある主題図は、ドイツのワイン生産に関するものである(http://aktuell.nationalatlas.de/wein-2_03-2016-0-html/)。

 なんでもEUでは、2016年からワイン用ブドウ栽培の認可制度を変更したとのことである。これまで、ワイン用ブドウは生産過剰の状態にあり、生産面積の拡大は認められなかったが、加盟国は、年間1%までの栽培面積の拡大ができるようになった.背景には、ワインの世界市場の変化、とりわけ、ヨーロッパ以外においてワイン需要が拡大し、ヨーロッパにとって新たな輸出のチャンスが増えたことがある。

 この地図をみると、ドイツにおけるワイン生産地帯(13の原産地認定ワイン生産地域がある)は、ドイツ南西部に集中している。なかでも、ライン川とその支流(モーゼル川やマイン川など)流域が主要な生産地域で、これらを含むラインラント・プファルツ州とバーデン・ビュルッテンベルク州でドイツワイン生産の9割近くを占めている。

 ドイツと言えば白ワインである(地図の凡例のWeßer Rebsortenが白ワイン Rote Rebsortenが赤ワイン)。しかし、近年、赤ワインの生産が伸びており、赤ワインの面積比率は24.1%(1999年)から35.1%(2014年)に増加しているという。

 そしてドイツの白ワインと言えばリースリングである(白ワインの一番上の黄色)。ドイツのワイン用ブドウ品種の4分の1がリースリングであり、ここ15年間、そのシェアに大きな変化はない。そして、リースリングが卓越して生産されるのは、13の生産地域のうちモーゼルとラインガウである。一方、他の白ワイン用ブドウ品種には大きな変化があり、グラオブルグンダー(ピノ・グリ)やバイサーブルグンダー(ピノ・ブラン)が著しく増加し、一方で、ミュラー・トゥルガウやケルナーが減少している。

 赤ワインで最も生産が多いのは、シュペートブルグンダー(ピノ・ノワール、凡例の赤)であり、南部、バーデン地方で高いシェアを占めている。近年、赤ワインで生産が伸びているのは、ドルンフェルダー(凡例のオレンジ)であり、赤ワインの中で栽培面積は第2位である。ドルンフェルダーは色の濃いワインで、元来は色づけのために他のワインに混ぜていたという。しかし、今日、現代的なワインとして人気を博している。

2016年3月11日金曜日

ドイツの放射線観測網(2)

 さて、ドイツにおいて原発の事故など緊急事態があった場合、放射能汚染がどこでどれくらい広がっているのか、そしてこれから広がる可能性があるのか、それを予測するシステムについてである。ドイツでは、このシステムをIMIS(Integrierten Mess- und Informationssystem統合観測・情報システム)といい、これは、PARK(Programm für die Abschätzung Radiologischer Konsequenzen放射線レベル評価プログラムとRODOS(Realtime Online Decision Support Systemリアルタイム・オンライン・意思決定サポートシステムから構成されている。このシステムによって、ドイツ各地における環境内の放射性物質とそれによる人間の外部被曝(大気中の放射性物質による)、内部被曝(摂取する汚染された食料による)が見積もられることとなる。ここで、拡散の予想には、ドイツ気象庁の気象予報も用いられる。

  このシステムによる予測結果は、地図に示される(ここでも地図というかたちの表現が用いられる!)。これにより、各地においてどの程度の汚染の可能性があるのか、そしてどんな防護手段が必要なのか、判断ができる。例えば、下図は、2005年4月14日にマンハイム周辺で放射性物質が放出された場合、4月16日まで葉物野菜におけるヨウ素131の汚染がどれくらいかシミュレーションしたものである。EUの基準が2,000ベクレル/kgなので、緑から黄色にかけての地域が基準値以下であり、オレンジから紫の地域が基準値を超えている。この地図において放射能汚染の程度は、市郡単位で示されており、どの地域の野菜が危険か、生産者も消費者も容易に把握することができる(千葉県のある観測点において放射線量の値が高いからと言って、千葉県全体が同様に高いとは限らない)。いざというときに(放射能汚染の可能性があるときに)、個々人がどう行動すればよいのか、支援するシステムが構築されている。同じようなシステムがもしあったなら、福島の、とりわけ原発に近い地区の人々の被爆はもっと小さいものにできたかもしれない。そして今も、原発を稼働させ続けるのであれば、事故のリスクを小さくすることはむろん重要であるが、リスクがゼロと言うことはありえず、もし事故が起こった際の放射能汚染に備えておくことは必要であろう。

http://www.bfs.de/DE/themen/ion/notfallschutz/entscheidungshilfen/entscheidungshilfen_node.html;jsessionid=3C6E254B61484702E2480CF5E9B1092A.1_cid374






2016年3月10日木曜日

ドイツの放射線観測網(1)

 先日、NHKスペシャル「“原発避難”7日間の記録〜福島で何が起きていたのか〜」を見た。もう少し掘り下げてほしいかなとも思ったが、目に見えない放射能に対して住民の方々のもつ不安はひしひしと伝わってきた。

  私は、1986年の6月に渡独し、1988年10月までドイツに滞在した。この渡独直前の4月にチェルノブイリの原発事故が起こり、西ヨーロッパへも放射能汚染が拡大することとなった。ドイツでも南部バイエルン州を中心として高濃度の汚染に見舞われている。当初は全く気にもとめていなかったし、大学の周りの教員も学生も気にしていないと言っていた。ところが、身近で放射能汚染を深刻に受け止める人がいて、自分も気にしなくてはいけないような気分になってきた。実際、リベラルな新聞Frankfurter Rundschau(日本でもよく引用されるFrankfurter Allgemeineとは別)には、週末になると、「今週の放射能」と称して、牛乳からは何ベクレル、牛肉からは何ベクレル、放射能が検出されたという記事が出されていたし、住民団体が、小冊子をだして、どの銘柄の牛乳はどれくらいの汚染があるかなど、食品毎に汚染の数値を示していた。全く気にせず生活を送る人々、一方で、放射能汚染を深刻に捉えて行動する人々、福島原発事故の日本と同様の状況が当時のドイツでも存在していたわけである。

 当時は、まだインターネットもなく、情報源は限られていた(しかもドイツ語!)。今、目前にし食べようとしている食品の中に、もしかして害があるかもしれない放射能が含まれている、と思うだけで、おいしくないし、大丈夫かと不安になってくる。鹿やイノシシなど野生動物やキノコなど特に汚染が激しいとされていた中で、フィールドとしていたチロルの村の民宿で、同宿のスイス人夫婦から、採ってきたというキノコの料理をニコニコしながら勧められ、「ありがとう!」と答えつつ口にした時の気分、、、。かような経験から、福島で放射能に対して不安に思う人々の気持ちはよくわかる、と思う。

 ドイツでは結局のところ、放射能に汚染された食品を2年近く食べてきたことになる。「またかよ!」と、福島の原発の放射能が関東にも風に乗って運ばれてくると聞いたときに呆然としてしまった。で、いつどれくらいのレベルの放射線物質が襲ってくるのか、そしてそれが屋内に待機すべきレベルなのか、あるいは避難すべきレベルなのか、よくわからないわけである。しかし、ドイツにいたときとは異なり今回は、インターネットがある。そこで、インターネットを活用してどう行動したか、加えて放射線のリスクをどう評価したか、まず紹介してみたい(2011年10月に埼玉県男女共同参画推進センター(With You さいたま)と埼玉大学の合同の公開講座「ポスト3.11を生きる-何ができるか、何をすべきか-」の中で「「災害のリスクを評価する-情報の海の中から」という題で話した)。

 事故直後はまだ、ネット上で、全国各地で自分の住んでいる場所の放射線量は把握することはできなかった。ただ各地の原発周辺ではモニタリングがされており、ネットでも公開はされていた(福島の周辺のものは故障で見られない状態が続いた)。関東では、茨城県北部東海村に原子力関連施設が立地しており、周辺数十箇所で、茨城県環境放射線監視センターが放射線量のモニタリングをしており、ネット上でリアルタイムで線量の変化をみることができた。ここは、福島第一原発から首都圏に向かう途中であり、この観測地点で線量が上がることは、その後、首都圏でも線量が上がると予想される。むろん、それは風向きによる。風がどの方向にこれから吹くのか、GPV気象予報http://weather-gpv.info/を利用した。ここは、5kmメッシュ単位で、風向その他の予報を39時間先まで行っている。茨城北部の観測ポイントで線量が上がり、関東北部で南西寄りの風が続くようであれば、首都圏に放射性物質が及ぶ可能性が高くなる。ただ実際に線量が上昇しているかはわからない。そこで参考にしたのが、東京日野市に在住する個人のサイトで、自らのガイガーカウンターによる放射線量の観測結果を公開するものであった。茨城で線量が上がり、その後、日野で上がれば、確実に、埼玉や東京でも線量が上がっていよう。

  その後、各地で、放射線量の公開が行われるようになっていったが、埼玉県で1カ所、東京とで1カ所などわずかであり、面を広く覆うようなものではなかった。さいたま市の線量は、秩父のそれとは当然異なるわけであり、さいたま市の線量をもってして埼玉県の線量を代表させることは乱暴である。では、チェルノブイリの被害を受けたドイツではどうか。ドイツ連邦放射線防護局のサイトhttp://odlinfo.bfs.de/index.phpでは、リアルタイムでドイツ全土の放射線量のレベルを地図のかたちで公開している。ドイツのどこで線量が高いか低いか一目瞭然であり、観測ポイントをクリックすると、グラフで線量の時系列的変化もみてとれる。観測ポイントは1800カ所であり、非常に密にかつ面を覆うように設けられている。このようなシステムがあれば、上に書いたようなことはする必要はなかった。現在、日本でも原子力規制委員会が、放射線モニタリング情報http://radioactivity.nsr.go.jp/map/ja/を提供している。公開が進んでいることは評価できるが、観測ポイントに偏りがあり国土全体を覆っていないし、また、都道府県単位、市町村単位でしか表示できず、福島県全体あるいは関東全体の線量の分布を俯瞰することが残念ながらできない。気象観測のアメダスは、全国にまんべんなく(ドイツ語でflächendeckende面を覆うように、この形容は、地域計画・空間整備にも使われる。17km間隔で1,300カ所)設けられている。このアメダスに放射線量の測定装置を付加するだけで、ドイツと同様のシステムが簡単にできるような気がするが、どうだろうか。 さて、この件のサイトで南部バイエルンの観測ポイントでも色の濃いところをクリックしてみてほしい。0.12から0.15μSv/hくらいで推移するところがけっこうある。このレベルは実は福島の中通り、福島市や郡山市のレベルとそう異ならない。また、東京よりもミュンヘンの方が値が高い。ドイツを含むヨーロッパでは、現在でも食品から放射能が検出されるし、チェルノブイリを未だ引きずっている。

  ドイツは、脱原発を打ち出したが、稼働中の原発は国内にもあるし、お隣フランスでは、原発は58基あり、事故による放射能汚染の可能性がないわけではない。この観測システムは、事故など緊急事態の際の汚染予測にも使われている(日本のSPEEDIと同様のシステムといえるが、ドイツでは各地の実測値も利用してる)。その予測については次回と言うことで。

 
 




2016年2月21日日曜日

ヨーロッパを安く移動する(2)

 さて、前回は鉄道やバスによる長距離移動において安く移動する方法について述べた。一方、ヨーロッパにおいて各都市において、バスやトラム、地下鉄などを1枚のチケットで、また一日券や3日券で格安に乗車できるシステムがあることはよく知られている。ドイツではVerkehrsverbund運輸連合という組織のもとで、こうしたシステムが運営されている。この運輸連合のあり方の詳細については、土方まりこ 2010. ドイツの地域交通における運輸連合の展開とその意義. 運輸と経済 70(8):85-95.(http://www.itej.or.jp/assets/www/html/archive/jijyou/201008_00.pdf)において紹介されており、この文献の95ページにドイツにおける運輸連合の分布図が、ドイツ鉄道アトラスに基づいて示されている。ここであまり注目されていないようであるが、興味深いと思えるのは、個々の運輸連合の領域が拡大しているのではないかということである。分布図をみると大都市ほどその運輸連合の管轄域が広い。都市圏の拡大に伴って実際に運輸連合は拡大してきたのか、変化プロセスを追ってみてもおもしろいかもしれない。

 一回券にせよ一日券にせよ、ある都市圏における交通においてはゾーン制がとられており、街の中心、旧市街あたりだけであれば安く、都心から離れたところへ行こうとするほど当然であるが高くなる。とはいえ、前述のように、運輸連合の範囲が広くなっているので、うまくチケットを使えば思いの外安く、遠くへ小旅行が可能となる。たとえば、ドイツの大学都市ハイデルベルクを含むライン・ネッカー運輸連合を例にとってみよう。ここに3、4日滞在するとしてライン・ネッカー圏全体の交通(路面電車やバス、国鉄など全て、特急を除く)を利用できる3日券を42.3ユーロで買う。これでハイデルベルク市内全域を自由に乗り降りができるし、マンハイムに足を伸ばして、トルコ人街でトルコ料理を味わい、さらにドイツ・ワイン街道まで、郊外電車か、とことこ走る路面電車ででかけてワインを楽しむこともできる。

 もっと広い範囲をカバーする運輸連合が、チロル州運輸連合であり、チロル州全体を管轄する。1週間のチケット54.6ユーロで、チロル中の鉄道、バス、トラムなどが利用可能である。チロルはけっこう山の中までバス網が設けられているので、使い出がある。インスブルックに滞在しつつ、西は、フォアルベルクの手前のスキーリゾート、サンクトアントンまででかけたり(夏もゴンドラが運行していてアルプスの雄大な風景が堪能できる)、東はチロル有数の高級リゾート、キッツビュールの町歩きを楽しんだりすることができる。チラータルの軽便鉄道に乗ったり、イン河谷の崖を登っていくインスブルックからゼーフェルトに至る眺望のよいルートをいくこともできる。また、オーストリアでは、特急料金というものがないので、チロル内であれば、RailJetと称するオーストリア国鉄の特急や、チロルを通過する国際特急ECなども利用できる(日帰りであれば身軽なので、ゆったり食堂車でビールを飲みながらチロルの風景を堪能できる)。

 かように都市内という近距離のみならず、中長距離においても、うまくチケットを使うことで、安く移動が可能である。このことは、旅行者のみならず、そこに住む人々にとっても同様であり、安価にモバイル(移動)できる環境があるわけである。