2019年4月26日金曜日

ライプニッツ地誌研究所の「今月の地図」(2)-1:ドイツのビール

 新学期が始まり、歓迎会、新歓コンパなど飲む機会も多い(新学期だけではなく年中だろう、という声も聞こえてきそうだが、、、)。それにちなんで、ようやくに、ライプニッツ地誌研究所の「今月の地図」の第2弾として、「ドイツのワイン」に続いて「ドイツのビール」をとりあげたい。
 学生時代にドイツにいた頃には、むろん毎日のようにビールを飲んでいた。全国で販売されている言わばナショナル・ブランドのビールもあったが、それぞれの町や地方で生産され、そこでしか販売されないビールも多かった。ビールは、そのビールが生産されたビール工場の煙突の見えるところで飲め、と誰かから言われたものである。それぞれが個性ある味わいをもつ、日本でいえば地酒のようなものであろうか、そして何よりも新鮮さが大事ということであろうか。ドイツから帰国して、友人等に帰国の会を開いてもらって、そこで「これが今、日本で流行っているビールなんだぜ!」と飲まされた某社の某ビールを飲んで、「これがビールか?ビールじゃないだろう!」と驚いたことを鮮明に覚えている。日本でもドイツでも基本的に同じピルスナー・タイプのビールが主であるが、日本では、一気に飲み下すことを前提に、のどごしを重視するのに対して、ドイツでは、ビールを日本酒のように舌の上で味わいながら楽しむのではないか。ビールの飲み方の違いが、ビールの「造り」の違いをもたらしているのかもしれない。
 さて、次の地誌研究所のHPは、ドイツのビール醸造所を取り上げている。
http://aktuell.nationalatlas.de/brauereien-3_04-2019-0-html/
 この1枚目が、2017年におけるドイツのビール醸造所の分布、2枚目が、2004年~2017年における醸造所の変化、3枚目が、ドイツにおけるビール・コンツェルン(10大ビール企業)とその立地、そして、グラフの1枚目が1956年~2018年におけるバイエルン州とその他ドイツの醸造所数の変化(バイエルンだけが別になっているのがなんとも、、、)、グラフの2枚目が、2004年~2018年における規模別ビール醸造所の変化を示している。
 ドイツは世界で最もビール醸造所の分布密度が高い。ここで、ドイツの10大ビール企業が、市場の約3分の2を占めている一方で、クラフトビールの流行も相まって、小規模なビール醸造所も増えている。この傾向はとりわけ大都市において顕著である。ドイツ全体では、約1500の醸造所があるが、その半分以上はいわゆるマイクロ・ブルーワリーである。
 1874年、ドイツ帝国のもとで、ビール醸造所はなんと2万8千カ所あったが、第2次大戦後には、様々なデータがあるが、おそらくは1万強までに減少した。そして、1988年に至っては、1168カ所までとなる。 背景には、工業化の進展や醸造所の吸収合併があり、レストランや農業と兼業で行われていたビール醸造が消失していったという。
 1980年代になって、伝統的な地方のビールを好むという消費性向が現れ、こうした縮小傾向に歯止めがかかる。さらに、2000年代になって、マイクロ・ブルーワリーが流行りだす。伝統的な小規模ビール醸造所が再発見されるだけではなく、北米やイギリスの影響を受けて、新しくマイクロ・ブルーワリーが拡散しはじめた。これらは、小規模で、ビールはホップとモルツ、酵母、水だけしか原料としてはいけないという「ビール純粋法」を無視するものであった。そして、アングロ・アメリカで好まれるような味が求められ、上面発酵のエールやIPAのような強い香りと独特の風味を持ち、アルコール度数が高い。
 2017年において1500あるビール醸造所のうち半分以上が、年間生産量10万リットル以下の小規模醸造所である。これらの市場シェアは、0.3%に過ぎない。一方で、26大ビール醸造所が全体の市場の6割を占めている。
 最初の図「2017年におけるビール醸造所」によると、ドイツにおける南北格差が明瞭である。バイエルン州(657カ所)とバーデン・ビュルテンベルク州(214カ所)でドイツ全体の半分以上を占めている。バイエルン州内では、バンベルク周辺のオーバーフランケン西部で分布が密であり、ここは世界でも突出してその密度が高い。この高密度は、かつて司教から与えられた醸造権という歴史的な特異性に起因するものである。ちなみにこの辺りは、フランケン地方の中でもビール醸造所が集中することから「ビール・フランケン」と呼ばれる一方、この西部、ビュルツブルクを中心とする地方は、ワインの産地であり、「ワイン・フランケン」と呼ばれる。
 ヨーロッパにおけるドイツの位置をみると、EU全体のビール醸造所の半分以上がドイツにあり、次いで、イギリス(667)、オーストリア(168)、ベルギー(115)、デンマーク(105)となる。逆に、1醸造所あたりの生産量は、760万リットルと最低である。

(続く)



 
 

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