2016年6月20日月曜日

ジャパン・ネット

 先日、日本野鳥の会の方の訪問を受けた。ホームページにて、私が鳥猟について調べていることをお知りになり、関心を持たれてのことである。わざわざ来ていただいた上に、興味深いお話を聞くことができ、そしてまた、貴重な資料を見せていただけ、かつ今後も情報を提供していただけるとの由、ありがたいことである。早くまとめて成果をだしたいものである。

  その折に話題になったのが、海外における鳥猟である。実はヨーロッパでも伝統的に鳥猟が行われてきた。他の仕事でドイツやオーストリアにでかけた合間、ついでに資料を集めてきている。ヨーロッパにおいても、また、アジアにおいても日本と同じように鳥猟が禁止された後も、鳥猟が行われてきた。例えば、1979年、現EUにおいては禁止されたが、イタリア北部(ロンバルディア、エミリアロマーニャ)においては、伝統的な生業として例外的に認められてきたという。総延長約27kmの網でもって、年間4000羽(ヒバリ、ツグミ、アトリ)までのがなされてきた。それが、2014年12月2日をもって、残存していた92カ所の場が禁止となった。同年11月には、EUがイタリア政府に対して、禁止しない場合は、数百万ユーロに及ぶ罰金を課すと警告していたという(http://www.presseportal.de/pm/7154/2895923)

 野鳥の会の方によれば、海外の鳥猟で今日用いられるのが、日本から輸出されるカスミ網だという。日本では、鳥獣保護法によりカスミ網の利用はむろん、販売、所持が禁止されている。だが、闇で製造され流通しているらしい。

 さて、以下のWeltというドイツの新聞のネット版をみていただきたい。( http://www.welt.de/wissenschaft/umwelt/article115488262/Die-700-Kilometer-lange-Todesfalle-am-Mittelmeer.html 2013年4月22日)「地中海沿いの700kmに渡る死の罠」という見出しの記事で、海岸沿いに延々と続く網の写真が掲載されている。この写真を皮切りに、網にかかった小鳥や、小鳥を調理する人々の写真が続く。
 

 同記事によると、ガザ地区からリビアとの国境に至るエジプトの海岸において700kmに渡って5mの高さの網が張られ、ドイツなどヨーロッパから南の越冬地へと、また南からヨーロッパへと向かう渡り鳥が年間1千万羽近くも捕獲されているという。

 この地の鳥猟を調査してきた生物学者Holger Schulz氏へのインタビューによると、ドイツにおいて野鳥が減少してきたのは、イタリア北部における鳥猟が原因と考えられてきたが、そうではなく、どうもこのエジプトにおける鳥猟によるものらしい。夜間、地中海を渡ってきた鳥たちは、早朝、疲れて切ってエジプトの海岸に到達する。鳥は、サハラを横切る前に休息を必要とし、海岸で最初に見つけた緑に向かって下降する。そこに網が張られており、一網打尽というわけである。

鳥は珍味として食されており、マーケットでは、それなりの値段で売られている。ウズラや鳩は1羽5ユーロ、ヒバリやナイチンゲールは、2ユーロから3ユーロである。Rasheedという町のあるマーケットでは、とある一日で、1万羽に及ぶ小鳥、3千羽のウズラが売られていたという。エジプトでは、ファラオ-の時代から鳥猟が行われてきたが、今日ほど鳥猟が商業的に行われている時代はないとのこと。そしてまた、エジプトにおいて鳥猟は違法ではない。

 この記事では、こうしたエジプトにおいて鳥猟に用いられる網を"Japan-Netzen"ジャパン・ネットとして紹介されている。日本で違法に製造され輸出された網が用いられているわけであり、この網が日本からもたらされていることが広く認知されていることになる。日本の技術が、世界の人々や自然の動植物の安寧に役立つとすればうれしい限りだが、過度な鳥猟を助長し、鳥類の減少、ひいては生態系の破壊をもたらしているとすれば残念なことである。そしてまた、ジャパン・ネットとして世界に流通していることも不名誉極まりない。