2015年5月7日木曜日

Ethnic Gentrification

  ジェントリフィケーションは、都市地理学など都市研究において用いられてきた用語であり、先の学会でも、ジェントリフィケーションを巡っていくつかの発表があった。ジェントリフィケーションgentrification、すなわち質的な向上とは、複合的、多面的な意味で用いられる。都市の中心部、スラムと呼ばれるような荒廃した地区、そこでは建物の質も劣悪で、住んでいる住民層も失業者や低所得者層で、犯罪も多発したりする。そんなところに、自発的に、工芸家や音楽家などアーティストが住み着いて、アトリエやライブハウスなどを開いたりする。面白い地区として、同じような層が集まってきて、彼らによって小洒落たカフェやバー、レストランなどができ、彼らなりの改修を重ねて、魅力的な場所へと変貌を遂げていく。あるいは、行政当局が、再開発によって、一気に古い建物を壊して、新しい住宅を建設し、高くなった家賃を支払えるだけの人々が移り住んでくる。いずれの場合も、住民層の入れ替えdisplacementによる社会階層の質的変化、そして景観上の質的変化を伴うという意味で、ジェントリフィケーションが生じたとされる。

 さて、私が時折、訪れてきた場所にドイツ中部、工業都市マンハイムがある。17世紀初頭に、ライン・プァルツ選帝侯が、ハイデルベルクから居城を移すべくライン川とネッカー側の合流部に建設した格子状の道路網をもつ宮廷都市をベースとする。私がドイツで、そして海外で最初に宿泊した都市でもある(Gasthaus Goldene Gans、トレードマークがよかった)。
 このマンハイムには、多くのトルコ系住民が住む。ドイツにおいては、第2次大戦後の労働力不足の時代に、労働者としてトルコ人を積極的に受け入れてきた。今日、ドイツの人口8千万のうち、外国人は810万人、トルコ人は最も多く153万人である(2014年。http://de.statista.com/statistik/daten/studie/1221/umfrage/anzahl-der-auslaender-in-deutschland-nach-herkunftsland/)。ドイツにおけるトルコ人の最大の集住地区は、小イスタンブールと称されるベルリンのクロイツベルクである。ドイツ西部地区では、このマンハイムが多くのトルコ人を抱えており、市の人口32.9万人のうちトルコ人が2.8万人を占めている(2013年。https://www.mannheim.de/stadt-gestalten/bevoelkerung)。彼らトルコ人が集住する一つが、市中心部Marktplatzから西南西、ラインの港に至る通りである。1987年、ハイデルベルクにいた頃、エクスカーションで連れて行ってもらった頃は、なんとなく薄汚れた印象であった。



Marktplatzに面するトルコ人向け商店(1987年)

トルコ人向けの店が並ぶ通り(1987年)

バーが並ぶ。手前にはトルコ人家族。(1987年)

荒廃した建物(1987年)

現在のトルコ人街。改装されたトルコ料理店ときれいになったファサードの建物。



ところが、である。折に触れて訪れるたびにこの地区はきれいになっていく。レストランやパン屋は小ぎれいに改修され、通りの建物も、見栄えよく塗られていく。加えて、彼らの居住域、経済活動の範囲も、メイン・ストリートにまで広がっていった。住民の入れ替えはなく、彼らの経済的状況の変化、すなわち所得の向上、生活水準の改善によって、この地区の質的向上、ジェントリフィケーションが生じたといえる。ベルリンが長かったS大のN氏にこの話をしたところ、クロイツベルクでも同様の傾向にあるという。実際、N氏にクロイツベルクに連れて行ったもらったところ、小ぎれいになり、ドイツ人らも多く訪れるようになっていた。社会階層の入れ替えを伴わない、民族集団の経済的状況の変化に伴うこうした変化は、ethinic gentrificationだ、と勝手に名付けていた。ググってみると、カナダ、トロントでも、民族地区のジェントリフィケーションが生じているらしい。ドイツの科学研究費DFGの研究助成でも、ハノーファー大学のMatthias Schmidtによる研究プロジェクトEthnic Gentrification? - Zur Rolle aufstiegsorientierter Migranten bei der Aufwertung innenstadtnaher Altbauquartiere(2011-2013)があった。ethinic gentrificationという用語が適切かどうかは別として、新たな現象としては生じており、注目されていることは確かである。




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