2016年7月16日土曜日

2つの名前を持つ街

 今週末からベルギーのリェージュで開催される学会に参加するため、昨晩、リェージュに入る。国際地理学連合の本大会は4年に一度、地域会議はその間の年に開催されるが、それぞれの分野ごとに委員会があり、独自で会議を企画・開催している。私が参加するのは、Commission of the Sustainability of Rural Systems持続的農村システム委員会の会議で、農村に関心を持つ地理学者が集まってくる。研究発表の会に加えて、開催地周辺の農村を巡るエクスカーションが実施されるのもありがたい。
 今回、成田からヘルシンキ乗換で、ブリュッセル空港に到着した。空港ロビーは、銃を持つ兵士が巡回しているが、カフェでゆったりお茶を飲む人々らからは、平常そのものの雰囲気を感じる。
 ブリュッセル空港の地下に鉄道駅があり、そこからリエージュを目指す。あらかじめベルギー国鉄のサイトで切符を買うこともできたのだが、買い忘れて窓口にて購入する。ウィークエンドは安くなり、リェージュまで18.8ユーロ。もたもたしていて当初乗ろうとした列車に乗れず、時間が空く。再び、到着ロビーに戻り、携帯ショップにてベルギーのsimを購入する。1ヶ月の間、ネットを2.5GB、通話を10分できて15ユーロであり、リーズナブルな価格と言える。早速にsimフリーの携帯に差し込み、ベルギー国鉄の時刻表の確認やグーグル・マップで位置の確認をする。
 空港からリェージュまで直行する列車はなく、ルーバンという駅で乗り換えをしなくてはいけない。ルーバンで降りて、電光掲示板にて乗り換える列車の番線を探す。が、リェージュなる行き先はどこにも表示されていない!とりあえずは、ベルギー国鉄のホームページで記載されていた番線に行き、ホームの係員にたずねて、この番線でよいか確かめ、入線した列車に乗り込む。
 ベルギーは多言語国家、公式の言語境界線が引かれており、北ではオランダ語、南ではフランス語が優先される。ルーバンはオランダ語圏に位置し、地名もまたオランダ語表記をしており、フランス語圏のリェージュLiègeをオランダ語のLuikと表記していたのであった。リェージュLiègeをいくら探しても見つからないわけである。地元の人々には当然かもしれないが、旅行者には不便極まりない。多くの場合、こうした言語境界地帯においては、両言語併記とされるのが一般的であり、一方の言語しか提示されないのは珍しい。ベルギーにおける両言語の複雑な関係を物語っているとも言える。
 地名は、この地表面上のある特定の場所の位置を示すシステムの一つである。そして、この位置を示す地名の体系は、この地表面上のどこに立つか、そしてどの言語を用いるかによって異なる。日本にいて日本語で示す地名の体系と、ドイツにいてドイツ語で表す地名の体系とは違うのである。ヨーロッパの中においても、それぞれの国毎に地名の体系は異なっており、一つの国の中でも、異なる言語ごとに地名は異なることになる。
 ドイツにいたとき、駅に行って列車の行き先の看板をみて戸惑ったものである。Genfゲンフ行き、Mailandマイラント行き、っていったいどこに行くのだろう?前者はジュネーブ、後者はミラノであり、それぞれドイツ語による地名である。Pressburgはどうだった?と聞かれて、はて?と聞き直し、ブラチスラバBlatislavaのドイツ語名と知る。日本の学校教育においては、現地の読みに近いカタカナ表記をすることになっているようだが、カタカタ化し日本語風の発音をすることで、日本、そして日本語独自の地名の体系となるわけである。
 現在、日本の大学では、「グローバル化の推進」とやらで、とりわけ英語の修得を学生に求めている。その際、現地読みで覚えてきた地名を、今一度、英語で覚え直さなくてはならないこととなる。これまでドナウDonau川と習ってきたが、それでは英語圏では通じず、英語ではDanubeダニューブ川である。ドイツのバイエルンBayernは、英語では、ババリアBavariaであり、ミュンヘンMunchenは、ミューニックMunich。英語を学ぶと言うことは、英語による世界像、英語が散りばめられた世界地図を頭に描くことができるようになることでもあろう。
 


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